賃貸物件を運営する貸主の皆さんにとって、壁紙のわずかなめくれや損傷が原状回復費用にどれほど影響するかは、常に頭の痛い問題ですよね。

退去時に小さな損傷が予想外の修繕費用を引き起こすことがあり、貸主としてはその出費に心配を感じることでしょう。

今回は、壁紙の損傷が原状回復費用に与える影響と、その負担を軽減するための知識について解説します。

賃借人負担となる壁紙の原状回復費用

賃貸物件における壁紙の原状回復費用は、通常、貸主が負担するものです。これは、物件の自然な経年劣化や通常使用による損耗が想定されるためです。

日焼けによる壁紙の色あせ、電気製品の主に冷蔵庫やテレビの裏側にできる壁紙の黒ずみなどは自然損耗として賃貸人側の負担となるのが通常です。

しかし、賃借人の故意や過失によって壁紙に損傷が生じた場合、その修繕費用の負担は賃借人に求められます。

退去者に請求できる壁紙の原状回復費用
  • 家具を移動する際に破けてしまったり、穴が空いてしまった
  • 引越屋さんや運送屋さんが荷物の搬入時に傷つけてしまった
  • クギやネジの穴(画びょうは含まれていません)
  • 落書き
  • 結露を放置していてがシミやカビができてしまった
  • タバコ関係(特約にて別途定められるのが通常)
  • 賃借人が天井に直接つけた照明器具の跡(通常の照明とは異なります)

小さな破れで部屋の壁紙交換


壁紙の色が変わった全面交換できるのか?

小さな破れがある場合、その修繕費用はどれくらいが入居者の負担となり、どれくらいが貸主の責任となるのでしょうか?この問題は、賃貸管理をしていると非常によく遭遇する課題の一つです。

例えば入居時に家具を動かす際に、壁紙を少し引っかいたとします。この傷を直すために、技術的にその傷だけを修復することはできます。

その部分だけ直しても、見た目が明らかに違ってしまい、家全体の価値が元に戻ったとは言えません。そのため、傷ついた壁の一面全部を新しくする費用を借りている人が払って欲しいと考えるのが貸主側の考えでしょう。

国土交通省のガイドラインは、その範囲について、㎡単位が望ましいとしつつ、あわせて、やむ
をえない場合は毀損箇所を含む一面分の張替え費用を、毀損等を発生させた賃借人の負担
とすることが妥当と明記しています。

それでも、その部屋のその部分だけ壁紙が交換したら、部屋全体のバランスが悪くなってしまいます。

なので、貸主側としては部屋全体の壁紙を交換したいと感じることでしょうが、そこまで借主側に求めるのは”㎡単位が望ましい”という事で、一面を許容するのがしょうがないという雰囲気なので、難しいでしょう。

全面張り替えはグレードアップに相当する

この点、当該部屋全体のクロスの色や模様が一致していないからといって、賃貸借の目的物となりえないというものではなく、当該部屋全体のクロスの色・模様を一致させるのは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きいというべきで、その意味ではいわゆるグレードアップに相当する部分が含まれると考えられる。したがって、当該部屋全体のクロスの張替えを賃借人の義務とすると、原状回復以上の利益を賃貸人が得ることとなり、妥当ではない。

原状回復ガイドライン

ハウスクリーニングと原状回復は別

賃貸管理を行っていると入居者側がよく勘違いしていることがあります。

それは「ハウスクリーニング代払っているんだから壁紙交換しなくていいでしょ」といった勘違いです。

原状回復とハウスクリーニング、この二つはよく混同されがちですが、実は全く異なる作業です。

退去時にクリーニング代を負担すると明記されていることが多く、敷金からクリーニング代を差し引いて返還するのが、首都圏を中心とした現在の賃貸借契約での一般的な慣習になっています。

「原状回復」と「現状回復」では漢字が異なります。これは物件を「原状」に復するための作業であることを意味しています。

ハウスクリーニングは、専門業者が物件を清掃する作業のことを指します。これは「入居前の状態に戻す」という原状回復とは異なり、賃借人が普段手が届きにくい場所まで念入りに清掃し、物件を綺麗な状態で次の入居者に引き渡すための作業です。

例えば、壁紙に落書きがある場合、これはハウスクリーニングで対応できる範囲を超えており、原状回復の対象となります。落書きのような明らかな損傷は、物件を入居前の状態に戻すために特別な修復が必要とされるためです。

実際の壁紙交換費用の計算方法

必要なのはメジャーだけ

壁紙が古くなったんだからその分価格が下がるはずだという観点については下記を参照ください。

壁紙・クロスの原状回復のルール: 耐用年数と費用算出の勘違い

壁紙・クロスの減価グラフと経過年数による残存価値は?

万が一、部屋全体の壁紙を交換する必要が出てきた場合、その費用はどのくらいになるのか、多くの貸主や賃借人が心配するところです。ここでは、壁紙の張替えに必要な概算費用の計算方法を簡単に解説します。

6畳の部屋の壁紙交換

部屋の床の長辺が4.0m、短辺が3.0m、天井の高さが2.5mの場合、壁紙の単価を1,000円/m²と仮定して計算してみましょう。壁紙の張替えには、実際の面積よりも少し多めに壁紙を用意する必要があります。これは、張替え作業の際に必要な切りしろを考慮するためです。簡単な計算では1.2の係数を使用します。

※係数は、プロの見積もりでは部屋の形や間取りに応じて1.1〜1.3の係数を使いますが、簡単な計算では1.2を使用します。

この条件で計算すると、壁の張替え費用が約43,200円(壁の面積が36m²と仮定し、1.2を掛けて、単価1,000円で計算)、天井の張替え費用が約14,400円(天井の面積が12m²と仮定し、1.2を掛けて、単価1,000円で計算)となり、合計で約57,600円が概算費用として見積もられます。

壁紙の部分修繕

実は、壁紙が少し破れたり損傷したりしただけであれば、必ずしも一面を丸ごと張り替える必要はありません。今の職人さんたちは、部分的な修復という技術を持っており、破れや損傷を綺麗に直すことができます。この技術により、壁紙の一部だけを修理することで、全体の見た目を保ちつつ、コストを抑えることが可能になります。(参考URL: DIYでの壁紙修理方法

実際、賃貸物件では入居者が入れ替わるたびに壁紙を全面交換するというわけにはいきません。そうなると、運営コストがかさみ、それが賃料に反映されることになりかねません。大切なのは、必要な部分だけを適切に修復し、物件を良い状態に保ち、なおかつ入居者が見学をした時に「うわぁ綺麗!」という印象をもたせる事です。

注意が必要なのは、壁紙の一部交換だけで済むにも関わらず、全面交換の料金を請求してくる場合があることです。特に、昔ながらの不動産屋さんの中には、修理費用を不当に上乗せして請求するケースもあります。今はWebで調べれんば原価がなんとなくわかるようになったので、すっかり減りましたが、昔の不動産屋さんはそうして収益を上げることは通常でした。

まとめ

壁紙の少しの破れや損傷が原状回復費用にどう影響するか、賃貸物件を運営する貸主や賃借人にとっては大きな関心事です。

壁紙の賃借人負担になる場合、賃借人負担となった場合”㎡単価”が望ましいという1面単位もやむなしという国土交通省ガイドライン。一部色が変わってしまうからといって全面交換までは認められないであろうということ。壁紙の部分修繕が可能であることについてお伝えしました。

賃貸物件の管理においては、必要な修繕を適切に行い、コストを抑えつつ物件の価値を維持することが重要です。賃貸物件の壁紙修繕に関する知識を身につけることで、過度な収益計画でない現実的な収益計画を作成し、スムーズな物件管理を目指しましょう。