突然の転勤が決まったから自宅を賃貸に出そうかどうかを迷っている時に、「孤独死などがあり事故物件になってしまうのか?」という不安は誰しもが味わったことがあることでしょう。

今回は、賃貸物件で以前に人の死亡があった場合の告知義務について解説します。

これには、法的な義務や道徳的な問題、そして未来の入居者との信頼関係の構築が関わっています。どのように対処すればよいのか、具体的なガイドラインと共にご紹介します。

少しでもこれから部屋を貸し出そうとする方の不安の軽減になればと考えてお伝えします。

ガイドライン作成の背景

自宅を賃貸に出して第三者に貸し出す貸主としての立場から見ると、過去の不幸な事案が貸し出す不動産の価値にどう影響するかは非常に重要な問題です。

このような背景から、国土交通省は「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を開設し、宅地建物取引業者が直面する課題に対処するためのガイドラインを策定しました。

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

このガイドラインにより、貸主は過去に物件で発生した人の死についての告知義務を明確に理解することができます。

例えば、自然死や日常生活での不慮の死は、原則として賃貸契約の際に告げる必要がないとされています。しかし、賃借人から特定の問いに対しては真実を告げる必要があり、事案の社会的影響や重要性を考慮して適切な対応を取ることが求められます。

貸主としてこのガイドラインを遵守することで、取引の透明性を保ちながら、賃借人との信頼関係を築き、不動産の安全で安心な流通を支えることができます。適切な情報の開示は、貸主としての責任を果たす上で欠かせない要素であり、不動産市場全体の信頼性を高めることにも繋がります。

ガイドラインには、賃貸の場合と売買の場合が並列で書かれています。そのため、決して読みやすい形にはなっていないと感じています。

私たちは賃貸の管理会社をメインの事業としておりますので、 焦点を賃貸に絞ってガイドラインの説明をしていきます。

賃貸の事故物件の告知の判断基準

賃貸物件における告知義務の判断基準は、貸主として非常に重要な部分を占めます。ここでは、告知すべきか否かの判断基準をガイドラインからピックアップして賃貸部分のみを書き出しました。

自然死や日常生活での不慮の死が発生した場合

自然死(老衰や病死など)や日常生活の中で偶発的に生じた死亡(例えば階段からの転落や入浴中の溺死など)は、原則として告知の必要がありません。これらは一般的に予見可能であり、心理的瑕疵として扱われることは少ないです。

特殊清掃が必要な場合や長期間放置された死

特殊清掃が行われた場合や、死体が長期間放置された場合などは、事故の性質が通常の範囲を超えているため、貸主はこれを借主に告知する必要があります。

死亡が室内で発生し、遺体が長期間発見されなかった場合は、壁や床に体液が浸透していることがあり、これらを徹底的に清掃し、消臭することが必要です。

これには、市販の清掃用品では不十分な専用の薬剤や機器を使用し、除菌、殺菌、そして徹底的な脱臭を行います。

主な特殊清掃の内容

消毒作業

感染症のリスクを避けるため、部屋全体を強力な殺菌剤で消毒します。

害虫駆除

死亡現場では、しばしばハエやウジなどの害虫が発生します。これらを完全に駆除することが重要です。

床や壁の特殊清掃

血液や体液が染み込んだ床や壁を特殊薬剤で清掃し、場合によってはフローリングの交換や壁の塗り替えを行うこともあります。

消臭

特殊な薬剤やオゾン発生器を使用して、悪臭の根本的な除去を行います。

死因や事案の社会的影響

死因が他殺や自殺である場合や、事件が広く公知のものである場合は、社会的影響が高いと考えられるため、告知が必要です。これは借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるためです。

借主からの直接的な質問があった場合

借主から物件の過去に関する直接的な質問があった場合、貸主は真実を告げる必要があります。これには、事案の発生時期、場所、死因など、要求された情報を正確に提供する責任が伴います。

賃貸契約締結後の発覚した事案

「契約して入居してもらったからもういいだろ」と考えられる不動産屋さんというのは少なくありません。

物件において死亡事故が発生したことが契約締結後に判明した場合でも、貸主はこれを借主に告知する義務がある旨がガイドラインで定められています。

いつまで告知義務があるのか?

告知義務の期間については、具体的な期限を設けることは難しいですが、宅地建物取引におけるガイドラインでは、特定の条件下での期間が示されています。特に賃貸物件における死の事案に関して、ガイドラインでは次のように規定されています。

自然死や日常生活での不慮の死が発生した場合

これらの死については、原則として告知の必要はないとされています。これは、自然死や日常の事故が一般的に心理的瑕疵(マイナスの影響)とは見なされないためです。

特殊清掃等が行われた場合

事故死や孤独死など、特殊清掃を要する死亡事案が発生し、その後清掃やリフォームが行われた場合、その事実については告知する必要があります。特に重要なのは、その事案発生から概ね3年間は告知義務があるとされています。

質問された場合や特段の事情がある場合

借主から具体的に事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから特段の事情が認識される場合には、事案の存在を告げる必要があります。これは、借主が十分に情報を得て判断できるようにするためとのことです。

上記の「概ね3年間」というのは、あくまでも孤独死からの特殊清掃があった場合の期間の目安です。

上記の自然死や日常の事故に関わらず、事案の性質が特に重大であるか、周知性が高い、または社会的な影響が大きい場合(例えば大きな注目を集めた事件や事故など)、これらの事案については3年を超えても告知する必要が生じることがあります。

では何年までそれが残るのか?という問いに対しては残念ながら、それを嫌だ気になるという人が一人でも残っている限り、告知義務というのは永遠とつきまとうことになってしまうのが現状です。

「ガイドラインを作ってもその程度か」と感じられているかもですが、以前は、室内での病死や孤独死があっても同じ取扱だったので大きな前進があったと捉えています。

お亡くなりになった理由で請求できる範囲が変わる

告知をするかしないかという点はどちらかというと不動産屋さんが気にするところになります。

部屋を貸し出す貸主の立場からは、「弁償してよ。。。」という観点のことの方が知りたいことになるでしょう。

どういった費用を誰に対して請求できるのかをお伝えします。

自殺の場合請求できる費用

主に請求できる費用を書き出します。

請求できる費用
  • 逸失利益
  • 原状回復費用
  • 家賃下げによる損害

逸失利益というのは、事故物件にならなければ受け取ることができたであろう家賃のことです。具体的には、「次の入居者が決まるまでの期間に本来発生したであろう家賃」などです。

自殺というのは、入居者の「故意」による死亡になります。そのため入居者側に支払い義務が生じるという形になります。

これらの支払い義務はお亡くなりになった相続人に請求する形となります。

入居者の相続人に請求できるからといって、近年の裁判所の傾向では、貸主側からの過大な原状回復費用やリフォーム費用は認められないという傾向になっています。

賃料下げた分の請求は?

自殺が出た物件だと賃料を下げなくてはならなかった場合、事故後1年間は家賃の全額、その後2年間は家賃の半額分を損害として認められた裁判の例があります。

自然死、事故死では請求できない

自殺であれば請求することができたものでも、自然死や転倒などでの事故死の場合にはそういった費用の請求が認められることは難しくなります。

遺体が長期間放置される状態が続いて、大規模なリフォームが必要となった場合などには、それらにかかった費用が認められる可能性が高まります。

他殺の場合は請求できない

見出しですべてが伝わってしまいましたが他殺の場合は入居者やその相続人に対しては何も請求できません。「本人に過失なし」とされます。

他殺の場合は、やはり報道機関が大きく取り上げる傾向にあり、噂はあっという間に広がり、賃料や売却価格への影響は大きくなってしまうというのが現実であるにも関わらず、悔しい限りです。

孤独死保険

では、貸主の立場としてそういったことに備える方法はあるのでしょうか?

結論をお伝えすると孤独死保険に加入しておくことでしか対応はできないかなというのが現実です。

ここまでお伝えしてきたとおり、同じ事故物件であっても、孤独死と自殺、他殺とあることはご理解いただけたかと思います。

部屋の中で何かあった時の保険を調べると”孤独死“保険という名前になっていて、孤独死にしか対応していないのかな?と勘違いしてしまいがちですが、大抵の孤独死保険の中に”病気・老衰・自殺・事件など死亡原因は問われません。”といった文言はあります。

加入される際にはよくご確認ください。

何かの参考情報としてでもご活用ください。

まとめ

自分の物件が「事故物件」として認識されることへの不安や、それが賃貸市場での物件の価値に与える影響に対する懸念は、貸主にとって大きなストレス源となります。このガイドラインが、そうした情報の開示をどのように扱うべきか、そしてその過程で感じるかもしれない不安やフラストレーションに対する洞察を提供し、少しでも心の負担を軽減できればと考えています。最終的には、貸主としての義務を遵守しつつも、事故物件のスティグマを管理し、長期的に物件の価値を守り抜くことが求められます。また、万が一の事態に備えて適切な保険に加入することも、未来への一歩を踏み出すための賢明な選択です。