賃貸借契約の退去時のハウスクリーニング費用について、2024年2月16日にX(旧Twitter)にて約85万回表示され、95件のコメント、220のリポスト,約1,700件(2024年2月17日時点)のいいねがついていたので、賃貸物件の退去時に問題になりやすい退去時のクリーニング費用についてお伝えします。
「どうしてもわかりません。賃貸の入居時に初期費用として『ハウスクリーニング代』を4万円と敷金16万円を支払ったのに、退去時に敷金から『ハウスクリーニング代』として4万円引かれています。なぜですか?」とDMで相談を受けたので「よく気づきましたね。それは『二重取り』ですよ」と答えたら「えっ…
— こう@不動産投資家 (@FPkinmui) February 15, 2024
退去時クリーニング費用の支払時期
退去時のクリーニング費用の支払時期は入居時に支払う場合と退去時に支払う場合とがあります。
首都圏の最近の賃貸市場では、敷金のない物件においては、入居時の初期費用に含まれており、敷金がある物件だと退去時に精算するというのが一般的と感じます。
賃料帯域の低い賃貸物件ですと、入居時の初期費用を低く抑えたい人が多いためか、敷金がなくても"ハウスクリーニング費用は退去時"としているパターンが多いなと感じています。
仮にX(旧Twitter)の相談者さんが本当に入居時にも払って、退去時にも払っていたという事であればそれは投稿主のおっしゃるとおり二重取りとなります。
退去時クリーニング費用は貸主負担が原則
クリーニング費用を入居者側、つまり借主さんが支払うのが一般的になりすぎているので、勘違いしがちですが、ハウスクリーニング費用は国土交通省のガイドラインでは貸主負担とされています。
国土交通省ガイドラインの修繕分担表にて、賃借人が通常の清掃を行っていた場合、ハウスクリーニング費用は賃貸人側の負担としっかり明記されています。
負担単位の欄にも、"通常の清掃や退去時の清掃を怠った場合のみ"と明記されています。
ハウスクリーニング費用は賃借人負担となる場合
賃貸借契約の退去時のハウスクリーニング費用は賃借人負担となっているのが一般的とお伝えしてきました。しかし、上記のとおり国土交通省のガイドラインでは賃貸人負担が原則となっています。
では、どのような場合賃借人負担となるのでしょうか?
注意すべきは、ハウスクリーニングと原状回復は別であるという点です。(本題とそれてしまうので詳細はリンク先を参照ください)
通常の清掃を行っていない場合
国土交通省ガイドラインでは、"賃借人が通常の清掃を行っていた場合"に限り、賃貸人が退去時ハウスクリーニング代を負担するとされています。
つまり、逆に通常の清掃をおこなっていなければ賃借人負担となります。では、通常の清掃とはどの程度になるのでしょうか?
- ゴミの撤去
- 掃き掃除
- 拭き掃除
- 水回り、換気扇、レンジ周りの油汚れの除去 等
と、のみ例示列挙されているにとどまります。「具体的には」とありますが、まったく具体的ではないですよね。
掃除している掃除していないの明確なラインが引かれているわけではありません。部屋が綺麗か綺麗じゃないかは人それぞれ感じ方は異なるはずなのに、そこまで引く必要はないと考えています。
築年数という客観的に明らかな数字があるものに対しても、部屋探しをしている人にとっての"築浅"、不動産屋さんにとっての"築浅"、大家さんにとっての"築浅"に大きな隔たりがあります。
大家さんにとってはその部屋は大切なものなので、何年経っても自分の子供かのように"築浅"と感じますが、入居者側にとっては築2~3年、せめて5年以内でないと"築浅"と感じないというのが不動産の現場で感じる溝だったりします。
同じように、室内の通常の清掃の基準をあわせるというのは不可能と言えるでしょう。
特約を設けている場合
そのように、永遠に折り合わないところで毎回入退去時に揉めるよりも特約で「退去時ハウスクリーニング費用は入居者負担」とするとすることで、特に入れ替わりの激しい首都圏の物件ではスムーズに賃貸経営ができるようになるからと、一律と入居者負担とするという慣習が出来上がったのではないかなと感じています。
入居者としても、貸主としても気をつけるべきところは、特約に退去時のハウスクリーニング費用の明記がされてないにもかかわらず、慣習であるからと当たり前のごとく入居者側にハウスクリーニング費用の請求行う不動産会社が少なくないというのが現状です。
経験の浅い不動産屋さんではとても多いように感じます。
特約にただ「ハウスクリーニング費用を借主負担とする」とざっくりと書いただけでも足りません。
本件賃貸借契約においても,特約事項にその定めがあるものの,特約事項によっても,ハウスクリーニングをすべき範囲等についての具体的な定めはなかったから,賃貸人と賃借人との間で,通常損耗の場合であっても,賃借人がハウスクリーニング費用を負担するものと明確に合意されていたとは認められない。
ハウスクリーニング特約について合意が認められないとされた例
「室内外の清掃」の記載については,どのような汚損状態が発生したときに清掃を行うことになるのかが明らかにされているとはいえず,通常の清掃を行った場合についても賃借人が負担すべき原状回復費用の範囲に含まれるかが明らかにされているということはできない。
ハウスクリーニング特約について合意が認められないとされた例
退去時のハウスクリーニング費用は特約に「借主負担」と記載するのみではなく、具体的な金額または単価を明記しておくのが好ましいと言えるでしょう。
裁判例の記録ではありませんが、実際に私自身のお客さんで調停までいって、特約に具体的な金額が明記されていないという事で退去時のハウスクリーニング代は賃貸人負担になったという事例があります。
と、なると国土交通省のガイドラインも具体性が足りないのではないかとツッコミたくなるところですが、消費者契約法では弱い方を保護するという性質が強く、賃貸借契約においては、大家さん側が強い立場となってしまうので致し方ないですね。
ハウスクリーニング特約についての判例
賃貸借契約の世界では、時間と手間がかかる割には訴額が決して大きくならないから、トラブルとなる数に対しての判例は少ないなと感じています。そんな中で、退去時のハウスクリーニング費用の負担を貸主負担となった判例と、借主負担を認めた判例を2つ紹介します。
判例は法律用語独自で書かれていて、何が書かれているのか結局よくわからないとなるので、それぞれの主張を会話形式にしてまとめています。
ハウスクリーニング費用の賃借人負担を認めた判例(貸主勝訴)
登場人物
敷金の一部返還とハウスクリーニング費用、鍵交換費用の負担について訴訟を起こした。
賃貸契約の提供者。特約に基づき、ハウスクリーニング費用と鍵交換費用を敷金から差し引いた。
私は契約終了時に、あなたが敷金からハウスクリーニング費用25,000円を差し引いたことに納得がいきません。この特約は私たちが合意したものではないし、もし合意していたとしても、消費者契約法に違反していると思います。
契約書と賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書には、契約終了時にハウスクリーニング費用として25,000円(消費税別)を負担する旨が記載されています。仲介業者もこの点について説明しました。この特約は明確に合意されており、賃借人にとっても一定の利益があります。
でも、その特約は私にとって不利益です。私はそのような高額な清掃費用を負担することに合意した覚えはありません。
特約は明確に合意されており、清掃費用も賃料の半額以下で、専門業者による清掃として相応の範囲です。これは賃借人の利益を一方的に害するものではありません。
裁判所はハウスクリーニング費用の負担特約の合意が成立していると判断
裁判所は、ハウスクリーニング費用の負担特約について、契約書や説明書に記載があり、仲介業者からの説明も認められることから、特約の合意が成立していると判断しました。
- 契約書への特約記載:ハウスクリーニングについての負担に関する特約が契約書に明確に記載されていること。
- 合意の明確性:賃借人と賃貸人の間で、ハウスクリーニング費用の負担特約についての合意が明確になされていること。
- 特約の合理性:ハウスクリーニング費用の金額が、賃料の額や市場価格に照らして合理的な範囲内であること。つまり高額すぎるハウスクリーニング費用は駄目。
- 賃借人の利益考慮:特約が賃借人が通常の清掃をしなくてもよいと、一定の利益をもたらす可能性があるとしました。
ハウスクリーニング費用の賃借人負担を認められなかった判例(借主勝訴)
ハウスクリーニング代の事のみではなく原状回復全体のような話であることと、ハウスクリーニング費用については、結論部分で何も触れられてはいないというものです。
登場人物
8ヶ月しか居住していないのに敷金の全額を差し引こうとされたので、敷金の返還を求めて訴訟を起こした。
原状回復費用として敷金から差し引き、返還を拒否した。
私は約8か月間この居室を使用しただけですが、あなたは敷金全額を原状回復費用として差し引こうとしています。これには納得がいきません。特に、障子や襖の張替え、畳の表替え、ハウスクリーニング費用など、通常の生活で生じる損耗に対しても全額を負担するという契約は合意していません。
しかし、契約書にはそのような費用負担について明記してあります。賃借人が居住することによって生じた損耗を修繕する責任は賃借人にあります。
だけど、その契約条項は非常に不明瞭で、具体的な修繕費用の負担についても、私が明確に認識し合意したとは言えません。特に、短期間の居住で敷金全額を失うのは合理的ではありませんし、信義則にも反します。
裁判所は敷金全額返還の請求を認めました。
賃借人が変更等を施さずに使用した場合に生じる通常損耗及び経年変化についてまで、賃借人に原状回復義務を求める特約は認められないから、賃貸人は敷金全額返還しなさい。
他の原状回復関係の問題もあり、ハウスクリーニング費用についての結論が書かれていないものしか見ることができていません。
賃料約22万円で敷金を約2ヶ月分の44万円預けて、敷金とは別に更に礼金2ヶ月分の44万円まで受け取っていたからという事情もあったため、借主側全面勝訴的な着地となりました。
仮にこの賃貸借契約書にハウスクリーニング費用の金額なり、単位なりまで明記されていて、礼金も暴利的な金額でなければ、例え入居期間が8ヶ月間だとしても、ハウスクリーニング費用の負担を借主とすることに問題がるという結果にはならなかったであろうなとは、実務的な目線からは感じます。
平成21年の話で、令和にもなっている現在には、ここまで横暴なことができる不動産屋さんはいないのではないかと思われます。
また、入居時にハウスクリーニング費用を支払ったのかどうかが定かではありません。判決からおそらく入居時には支払っていないものであろうとは思われます。
まとめ
退去時のハウスクリーニング費用に関する賃貸借契約の取り扱いは、賃貸人負担が原則であることが国土交通省のガイドラインによって示されています。
しかし、特定の条件下では賃借人負担となる場合があり、そちらの方が首都圏の賃貸借契約の慣習となっているのが現状です。
退去時のハウスクリーニング費用を賃借人負担とするためには、契約書に特約として具体的な金額までもが明記されている必要があります。
具体的な金額や単価が明記されていない場合、賃借人の負担とする合意が認められないこともあります。
賃貸借契約を結ぶ際には、ハウスクリーニング費用に関する条項を明確にし、契約内容を確定させることがトラブルを避けるようにしましょう。
見慣れない契約書を読解するのは、一般の方には困難極まりないことになります。そういったぼんやりした事も優しく伝えてくれるような不動産屋さんを探しましょう。