賃貸を貸し出す時にフローリングの原状回復について、入居者が入れ替わる時にどのような扱いになるのか気になるところかと思います。

フローリングはクロス・壁紙についで最も原状回復の争点になりやすい箇所です。(国土交通省発表の令和4年のトラブル相談割合のアンケート結果)

共にトラブルになりやすい箇所であるにもかかわらず、フローリングについてのガイドラインの考え方と、クロス・壁紙の原状回復についての考え方は大きく異なります。この記事ではそんなフローリングの原状回復時の費用負担をどのように決めていくのか?という点について伝えします。

フローリング・クッションフロア・畳を分けて考える

賃貸借契約書や国土交通省が用意しているガイドラインをスラスラ読める人は考えなくてよいことです。

賃貸借契約の時、重要事項説明書の読み合わせの時、にフローリングについてとクロス壁紙についての原状回復についてを同等に説明する人が少なくないというのが現実問題です。

なぜどのようになってしまうのかと真剣に考えました。

たどり着いた結論としては、床の原状回復についてフローリングの場合と、クッションフロアの場合と畳の場合、古くはカーペットの場合、これらがごっちゃになって説明されているというのが原因かなとたどり着きました。

それぞれ全く別個の取り扱いをしてもよいくらい、素材が違うものであるにもかかわらず、クロス・壁紙と同等に扱う必要のあるものもあれば、全く別の考え方をする必要があるものもあるはずです。

そのため、昨今ではもっとも多いであろう”フローリングだけ“に焦点を絞ってお伝えします。

フローリングは経年劣化は基本的に考えない

賃貸の原状回復問題といえば、まずこの図を思い出す人が少なくないのではないかというくらい有名なグラフです。

上述した、「クロス壁紙と同列で説明する」というのは、「このグラフにフローリングも含まれる」と説明している人が少なくないなというところです。

このグラフは新品のものと中古のものは価値が違うよね?その価値の経年劣化をグラフにしたものです。

壁紙であれば、6年経過することで残存価値は1円になるということを読み取ることができるグラフです。

フローリングの場合は、原則この経年劣化を考慮しません。(あくまでも原則であって、この経年劣化グラフを用いる場合もあるので、それは後述します。)

なぜフローリングは経年劣化を考慮しない?

一見するとクロス壁紙と同じように経年劣化で損損価値が減ってもおかしくなさそうであるのに、フローリングはその考え方を採用していないのでしょうか?

結論をお伝えすると、「”部分補修”が可能なため、経過年数の考え方になじまないため」という考え方からです。

ちょっとしたフローリングの傷のために、全体を張り替えるというのは現実的ではないから、その部分だけ補修しましょう、と一生懸命わかりやすく説明してみました。

そのちょっとの部分の補修であることの方が少なくないから、その部分だけのために経年劣化まで考えなくてはならないというのは、実際の賃貸の現場にはあわないであろうという考え方で大きく間違っていないと思われます。

そのため、賃借人にとってはフローリングについての取り扱いはより気をつけなくてはならないものと言えるでしょう。

賃借人負担となるパターン

フローリングの傷が賃借人の負担となる場合と、賃貸人の負担となる場合があります。そういった事例を列挙します。まずは賃借人が負担する場合についてです。

賃借人の不注意でついた傷

具体的には、なにか重いものを落としてついたフローリングの凹み、家具を移動する際についた傷などです。

引越時に冷蔵庫を動かす際なんかにもよく付くタイプの傷です。

こういったものは賃借人の負担となります。

下記画像のように複数枚にまたがって傷がつくことも少なくないでしょう。

そういった場合はどの範囲までを考えるのかも知っておく必要があります。

基本的には㎡単位で考えます。

部分復旧であることから、可能な限り傷のついた範囲に限定し、傷の補修工事が可能な最低限度単位とすることを基本としましょうという考え方です。

家具の設置の重みによる凹みも賃借人負担とされるのですが、フローリングである場合凹むほどの重さのものが最近あるのかな。。。というのは少しクビをひねります。クッションフロアーやカーペット、畳を前提としたものであるというのが私の考えです。ただ、凹みが生じてしまえばそれは賃借人負担となります。

最近多いキャスターの傷跡

特にコロナ禍でのリモートワークで自宅で仕事をする人が増えてから増えたなと感じている問題があります。自宅で仕事をするために、自宅でオフィスチェアやゲーミングチェアのようなものを使う人が増えたというのが理由のひとつにあるといえます。

そういった、椅子のキャスター跡は賃借人の負担とされています。キャスターの傷は通常の予測範囲内なんだから、ラグなり何かを敷いて保護をしておけという考え方です。

キャスターの転がりによるキズ等の発生は通常予測されることで、借主としてはその使用にあたって十分な注意を払う必要があり、発生させた場合は借主の善管注意義務違反に該当する場合が多いため、借主負担とする。

徳島県ルール

※徳島県の(公社)徳島宅地建物取引業協会では国土交通省のガイドラインを元に独自の運用をしており、そこからの引用です。

キャスターの傷がつくと範囲はとても広いものになってしまうので、入居者としては注意が必要です。

フローリングの変色は賃貸人負担

窓際などで、家具を置いて、太陽の光があたるところとあたらないところでこのように日焼けで変色してしまうことが多々あります。

こういった変色については、生活上避けられないものという考え方かた貸主負担とされるのが原則です。

まったくの余談ですが、先程の傷の画像も、この変色の画像も私の自宅のフローリングの画像を使っています。とても不動産屋さんの住んでいる家とは思えないなと書きながら反省しています。

ただし、窓をあけっぱなしにして雨が入り込んだことによる変色や、結露を放置していたことによる変色は賃借人負担となります。

フローリングのワックスがけも賃貸人負担

その他によくある争点として、ワックスがけの問題があります。最近でこそ簡易なワックスがけができるようになりましたが、ひと昔前はワックスがけに大変な労力がかかるものでした。(コーティングとは別)

そんなワックスがけ賃貸人負担とされています。そこまで賃借人に求めるものではないという考え方です。

賃貸人・賃借人折半案件

必ずしも50%ずつの折半とはなりませんが、こういう場合は賃貸人・賃借人ともに費用負担があるという事例を紹介します。

冷蔵庫下のサビ跡

冷蔵庫から落ちる水滴やなどを放置しておくと、冷蔵庫と床の接地面の金属部分がサビたりします。そういったサ ビを放置したことでフローリグに損害を与えると、それは賃借人の善管注意義務違反となり、負担を強いられるとのことですが、100%負担という形ではなく、一部通常損耗という考え方が取り入れられています。

もっとも最近の冷蔵庫ではそういったことも考慮されて作られているからこのようなことにはなりづらいのでしょう。

こぼした飲み物等のシミ

これまた、どちらかというとカーペット、畳時代のなごりに近い感じのものですが、フローリングでもありえないものではあります。

例えばコーヒーをこぼしてすぐに拭き取れば、フローリングのダメージは皆無ではありましょうが、それを放置していたら話は別です。

そういった場合、飲み物をこぼすのは通常の生活の範囲内の出来事だけど、こぼしたのを放置するのは善管注意義務違反ということで、賃貸人も賃借人もそれぞれが負担するという例があります。

フローリングの経年劣化を考慮する場合

ここまでのものは借主が原状回復費用を負担しなければならないというとき、経年劣化を考慮しなくてもよいものでした。

そんな経年劣化を考慮しなくてもよいというのが通常のフローリングの原状回復費用ですが、経年劣化を考慮しましょうという場合があります。

このグラフを使いましょう!という例です。

それはフローリングを全面張り替えなくてはならないという時です。フローリングの全面張り替えの場合は、経年劣化を考慮して原状回復費用を算出しましょうという考え方があります。

ペットの無断飼育で全面張り替えが認められた判決

ペット不可であるにもかかわらず、借主がペットを飼育して床にたくさん傷がついているから、フローリングの全面張り替えの費用を賃借人に請求できることが認められた判決があります。

東京地判 平27・1・29

平成25年7月から平成26年4月までの間の入居で、無断ペット飼育をしていることから契約解除になり、貸主は原状回復費用として約56万円を請求しました。

元賃借人は「フローリングの全面張り替えはやらなくていいでしょ」と反論したのですが、裁判所は約40万円を賃借人負担とするとしました。

請求した金額よりも下がってしまったのは、経年劣化を考慮してのものでした。

契約違反があったにもかかわらず、経年劣化を考慮されて実際の交換費用より安くなってしまったのかという点はなんだか納得のいかないモヤモヤ感が残るものの、貸主がフローリングの全面張り替えを求めて、それが認められた裁判の例は見かける事ができない希少な判決例です。

いずれにせよ、全面張り替えの場合はフローリングも経年劣化は考慮される例をお伝えしました。

まとめ

フローリングの原状回復に関する費用負担は、賃貸人と賃借人間でしばしば争点となります。

フローリングの原状回復の基準をしっかりと理解されている人は不動産屋さんでも少ないと感じています。

これからの時代は、床下暖房が通常の設備になっていると言えます。床下暖房用のフローリングとなるとより価格が高くなってしまうので、いつか大きな問題になってしまうかもしれないなとは感じています。

いずれにせよ、入退去の際に揉めることが少なくなるように、正しい知識を理解して、”基準”を貸主、借主、不動産屋間で合わせる事がもっとも大切であると考えています。

最後に余談ではありますが、フローリングの張り替えが必要になった時に賃借人が加入していた保険を使える場合もあったりします。それを語りだすとまた長くなってしまうので、またの機会に伝えさえてください。