自宅を賃貸に出していると賃借人から「法人登記していいですか?」と聞かれる事が思いのほか少なくありません。実際に本日そのような質問をされたので、入居者の法人登記を許すべきかどうかをリスクを洗い出して考えてみます。
住居?事務所?賃貸の形態の確認
まず、その物件を住居として貸し出しているのか、事務所として貸し出しているのかによって話は大きく変わります。事務所として賃貸に出していたのであれば、それは契約段階で調整すべき内容です。
今回は住居として賃貸に出していたのに、「法人登記の場所としてだけ使わせてくれないか?」という事について考えていきます。
マンションも除外
その貸し出している物件がマンションなのか?戸建てなのか?によっても説明しなくてはならない事が複雑化してしまいます。マンションですとマンション規約を考えなければならないので、今回は"戸建て"についてのみ考えます。
戸建ての場合、隣地間で何か、「商売をやってはいけません」という取り決めがない限り、法人登記ができないということはありえないです。それが例えコンビニの営業するできない第一種低層住居専用地域であっても、法人登記はすることができます。
法人登記は無断でできてしまう
実は法人登記は法律上では、大家さんの許可なく勝手にできてしまいます。もちろん、それが契約違反になるのとは別の話で、法人を設立する際、法人の本店移転をする際に、わざわざ大家さんの許可証など必要がないので。
言葉を選ばずに伝えると、世の中の法人で無断で法人登記をしているところは多数あると推測しています。
法人の設立は法務局の商業登記課の管轄になるのですが、この人たちの基準は「郵便物が届けばよい」ですからね。大家さんの許可を受けているのかどうか?ということどころ、そこに本当に建物が存在するのかどうか?ということも確認をしません。
法人登記を受け入れるか否かの判断基準
と、法人の登記をするということは一般の方々が想像する以上に簡単にできてしまうものです。
大家さんがその許可を出すかどうかは個別具体的に考えていく必要があるかなとは思います。
まず、今首都圏で賃貸に出ている物件で住居用とされているものの99%は法人登記不可となっていることでしょう。その法人登記が不可になった時代的背景まではさすがにわからないのですが、現代において「こんなリスクがあり得るな」というのを書き出してみます。
「何もしない」法人は危険
法人登記をしていいかという相談の際によくあるのが「何もしないから法人登記だけさせてください」というものです。
これは私は拒否をした方がよいと考えています。
「何もしない」のであれば、なぜ法人を作る必要があるのか?「なぜその法人を維持する必要があるのか?」という疑問があるためです。
例えば私たち宅建業は免許番号が更新を重ねていけば増えていきます。その更新の回数を増やし将来法人を売却して利益を得たいなどの理由があったりするのであれば、わからなくはないのです。(宅建業の事務所要件は法人の本店要件とは別の話です。)
ただ何もしない法人というのは逆によい印象を抱かないのが通常です。現に最近は何をしているのか実態がはっきりしない会社に対しては銀行口座すら容易に作ることができなくなっております。
「3社連続で口座開設を断られた。。。」と嘆いているのをまさに昨日聞きました。
バーチャルオフィスという存在
都内には、バーチャルオフィスというものがありまして、法人設立のための名義だけのために住所を貸すというサービスで、これはこれで立派な形として成り立っています。ただ、このバーチャルオフィスだと、ちょっと調べたら「あっこの会社はバーチャルオフィスだ」というのがわかるような時代になってしまいました。
ただ、本当に「何もしない」ということであれば、このバーチャルオフィスを選ぶべきだなとは感じます。費用を少しでも浮かせたいという気持ちは重々承知します。
知らぬ間に複数の法人が作られる
同じ建物、部屋に複数の法人を作る事は可能です。同じ住所にA社、B社、C社と理論的には無限に作ることができるというのが現行の法律です。
これまたリスクがはっきりしないものではあるのですが、例えばそれにより戸建てだと電話を複数の回線契約したりできるようになり得ます。(もちろん同じ法人でも個人でも複数回線契約できますが。。。)
あまりイメージできないかもしれませんが、「架空の人物」みたいなものが作りやすくなります。
実際にどういうことをしているのかまで具体的にはわからないのですが、特殊詐欺なんかの拠点になりえる可能性を秘めているな。。。と想像したりします。
こういった犯罪の温床になってしまう可能性というのは、法人登記の可否に関わらず生じるリスクではあります。ただ、法人登記をしたいという方たちであれば、そういったリスクは少し高まってしまうのではないかなと感じます。
法人登記をそのままにされてしまう
これは昔からある問題です。入居者は賃貸物件だから引っ越しをします。しかし、大家さんはその物件の持ち主でその物件を所有し続けます。
入居者さんが引っ越しをして出ていくなどであればよいのですが、お亡くなりになってしまったり、音信不通になったりで、その自分の物件に設定された法人登記がそのままになってしまうという事が稀ではなく、そこそこあります。
逆にそのように放置されてしまう法人があるということは、そこに登記があることが、本当にあるだけならそこまでのデメリットにはならないという証拠のひとつにはなってしまいます。
インボイス制度の影響
この問題はおそらく表立って起こることではないであろうとは感じつつも「この場合影響ないのかな?」と最初に頭に浮かんだので書き出してみます。
まず家賃と消費税についてお伝えします。「家賃には消費税がかからない」と捉えている方が大半であるかと思われます。
ただ、これは実は逆で、通常は家賃に消費税がかかるのですが、住居として使う場合は消費税を免除しますという順番なんです。つまり、家賃に消費税がかからない事が特別なんです。
法人登記がされているということはそこは法人に貸しているということになります。「大家さんは家賃の家の10%は消費税でしたよ」と言われてしまう可能性があるのではないかなと。
もっとも、大家さんが貸しているのはあくまでも自然人である個人であって、その個人が法人に転貸しているという形で、その転借代金の話にはなるかとは思うので、大家さんにとって直接何か不都合が行くということはないと考えています。
が、ほんの僅かな可能性を考慮すると。。。法人を節税目的で作る事が少なくありません。節税目的の会社であれば少しでも「経費」を多くしたいと考えることでしょう。そうなると家賃の支払いも個人が支払うよりも会社が支払った方がよいということで、会社側の決算報告で家賃の支払いをする可能性があります。
そのような場合は決算書に賃貸人としてオーナーさん側の住所と名前は登録されます。通常時は何もないのですが、いざその会社が税務調査を受けるとかの場合に、オーナーさんの氏名住所というのは税務署に伝わる事になるかなと。
実態と異なる事になるのでそれにより実害が生じるとは考えづらいですが、ある日突然税務署から連絡が来るというのはとても心臓に悪いですし。。。何よりも無駄なやり取りは可能な限り避けたいですよね。
インボイス制度により消費税が発生する取引の追跡というのは税務署側からはしやすくなっているはずなので。
まとめ
結論、「何かよくわからないな」と感じるようであれば、法人登記として使用されることは断った方がよいでしょう。
コミュニケーションを重ねて、その法人の活動理念などに共感を得ることができて応援したいなどの気持ちが生まれるのであれば許可をするというのはありだとは感じています。
しっかりとした話し合いなどがされて行われる法人登記に対してのデメリットは、登記を放置されてしまうこと、インボイスの問題程度かなと感じていますので。(インボイスの問題が面倒ですが)
また、「個の人には長く入居していてほしいな」という場合も法人登記を許可するのにはよいと考えています。法人登記ができる賃貸物件というのは限りなく少ないので、入居者が激しく入れ替わるということを防ぐ役目にはなることでしょう。
いずれにせよ、法人登記を受け入れるというときは口約束のみではなく、必ず約束事をしっかり書面に残しておきましょう。その約束事を決めるのは不動産屋に頼るのではなく登記の専門の司法書士を交えて話をするというのが理想です。インボイスの不安も感じるのであれば税理士も交えて決めるのがのちのちのトラブルを予防する事ができるでしょう。