貸主の皆様が初めて賃貸物件を提供する際に心配されることの一つが、原状回復費用の問題です。特に壁紙・クロスの修復に関しては、不安を感じる方も多いでしょう。この記事では、物件の内装価値が時間と共にどのように変化し、それが原状回復費用にどのように反映されるかを明確に説明し、貸主として抱えるかもしれない心配事を解消するための情報を提供します。

経過年数と物件価値の関係: 原状回復の基本理解

賃貸管理において、貸主として把握しておくべき最重要事項の一つが、賃貸物件の経過年数による価値の変化です。時間が経過するにつれて、内装や設備の価値は自然と低下します。この自然減価を理解することは、適正な原状回復費用の算出に不可欠です。賃貸物件の価値がどのように時間と共に変化し、それが貸主側の原状回復費用請求にどう影響するかについてお伝えします。賃貸管理のプロセスをスムーズに進めるために、この基本をしっかりと押さえておきましょう。

このようなグラフを見たことありますでしょうか?

賃貸借契約の際にはこれから入居する賃借人向けには丁寧に説明しますが、大家さんとなる貸主側にはあまり丁寧に説明しないなというのを感じています。具体例を用いてお伝えしますので、今一度向き合ってみましょう。

新品と中古の価値判断: 原状回復費用の算出基準

家を貸し出す際、内装や設備の原状回復に関する費用は、新品時の価値と使用後の価値の差を考慮して算出されます。このセクションでは、新品と使用済みの内装材料の価値がどのように異なり、それが原状回復費用の算出にどのように反映されるべきかを具体例を交えて説明します。特に、賃貸物件を提供する貸主にとって、過度な費用請求を避け、かつ公平な原状回復を実現するための基準を理解することが重要です。

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインでは、「部屋の内装の価値は、時間の経過につれて低くなっていく」という考え方となっています。

この言葉だけですと、あまりイメージできないかと思うので皆さんがお持ちのスマートフォンを具体例にして説明します。

2024年2月現時点で、iPhone15Proは発売から半年ほどなので15万円ほどします。これをあなたが「ちょっと貸して」と言って誤って落下させてしまい、iPhoneを破損させてしまえば、ほぼ新品と同じ価格の「15万円を弁償しろ!」と言われたら理解できるかと思います。

しかし、そのiPhoneが例えば日本で最初にiPhoneが発売された2008年のiPhone3Gだったします。当時はiPhoneは8万円ほどでした。これを壊してしまったとします。それで「8万円全額を弁償しろ!」(中身のデータがうんぬんとかプレミアム効果などは一切考慮せず)と言われたらクビをひねる人が大半なのではないでしょうか?「えっ?そんな古いものにもう8万円の価値ないでしょ?」と。

では、その2008年にiPhone3Gの8万円の価値は現在どのようになるのでしょうか?

iPhoneにおいては、なんとなくの市場的な価値しかありませんが、賃貸物件の内装については明確な基準を設けようと作られたのがこのグラフになります。

減価グラフ解析: 賃貸物件の耐用年数と価値減少

賃貸管理における重要なツールの一つが減価グラフです。このグラフを用いることで、内装材料や設備の耐用年数とその価値の減少を視覚的に理解することができます。本セクションでは、減価グラフの読み方と、それを用いて賃貸物件の原状回復費用を適正に算出する方法について解説します。貸主として、不当に高い原状回復費用を請求されることなく、また賃借人に公平な費用を提示するために、この知識は不可欠です。

x軸が耐用年数で、6年(クロス,クッションフロア等)と8年(エアコン等)と分かれています。

クロスは6年間使用したら残存価値が1円になるというグラフです。

このグラフを読み違えているのは、インターネットで誤った情報を得てなのか、賃貸借契約の重要事項説明をしている時に入居予定者から「6年住めば敷金満額返ってくるって事ですね」といった類の質問をよく受けていました。

これはあくまでも、通常使用をしていてのものです。

ガイドラインにもその旨が明記されています。

賃借人が故意過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインでは、「部屋の内装の価値は、時間の経過につれて低くなっていく」という考え方となっています。

仮に「6年住めば残存価値0円だから原状回復費用0円ですよ!」というのがまかり通ってしまうと、6年居住したら、室内を自分の好みに自由に改造できてしまうということになってしまうので、そのようになるはずがないというのは少し考えればわかることなのですが、本当に勘違いしている人が多いところです。

裁判例から学ぶ: 耐用年数超過後の原状回復責任

実際の裁判例を通じて、耐用年数を超えた賃貸物件の内装や設備に関する原状回復責任について学びます。このセクションでは、貸主として遭遇する可能性のある具体的なトラブル事例と、それに対する裁判所の判断を紹介します。耐用年数を超えた場合の原状回復費用の負担に関する理解を深めることで、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

耐用年数を経過する壁クロス張替費用等の原状回復義務はないとした賃借人の主張が否定された事例

そういった実際の裁判例もあります。平成28年と比較的最近と呼んでよい判例と言えるでしょう。

内容をざくり伝えます。

賃借人は40㎡の部屋を賃料を毎月105,000円払い、入居時に敷金を105,000円預託していました。

8年間居住しました。つまりクロスの法定耐用年数である6年を超えています。そのため、退去してもクロスの残存価値は1円ないし0円であろうと退去しました。

退去後室内を見たら、幼稚園のお子さんがいらっしゃって、その子が壁に落書きをたくさんしてしまっている状況で、クリーニングではとても落とすことができないようなものでした。

それに対し、貸主側は借主に原状回復責任があるとしたところ、借主側は耐用年数超えてるから敷金返せ!という争いでした。

結果、裁判所は、借主側の善管注意義務違反という事で賃借人側に交換費用の半額34,637円の負担を求める判決としました。

善管注意義務を尽くしていれば壁紙の全面の張替えをする必要はなかったであろうからという理由でした。

まとめ

賃貸物件の原状回復に関する勘違いは、入居者と大家さんの間で意外と一般的です。この記事を通じて、耐用年数の考え方や減価の読み方、さらには裁判例をもとにした具体的な解説を提供しました。しかし、個々の状況にはそれぞれ特有の複雑さがあります。ひとりで悩んでおられるようならお気軽にご相談ください。