自宅を賃貸に貸し出そうとする時、「鍵はどうすればいいんだろ?」という疑問を持たれている方も少なくないかと思います。

本日は賃貸物件を貸し出す際の鍵の取り扱いについて、現在の賃貸市場ではどのような取り扱いになっているのか?鍵交換にての裁判例についてお伝えします。

入居時の鍵交換は借主負担が通常

結論からお伝えすると、鍵の交換は入居時に借主が費用を負担しているというのが現在の首都圏で賃貸市場での慣習となっています。

これは、実際の工事費と入居者から徴収する鍵交換費用の差額を利益としていた古くからの不動産屋さんの慣習が残っているためではないかと感じています。

具体的には、鍵交換費用を10,000円もらって、実際の工事は8,000円で差額の2,000円を利益とするような感じです。鍵のシリンダーを使い回して実際には新品に交換をしていないのに、新品にしたかのような事をするような業者も少なくありませんでした。

インターネットでの情報により材料費・原価の想像がなんとなくできるようになって、そういった業者はすっかり減少したなとは感じています。

鍵交換費用を賃借人負担としても問題ないとした判例

昔ながらの不動産屋さんのやり方はさすがに酷いものです。

ただ、鍵の交換費用を借主負担とするという裁判所の判決例もあります。

鍵交換特約が有効に成立しており、消費者契約法10条違反でもなく、有効とされた事例では、鍵交換費用を賃借人が負担する旨の特約が有効に成立しており、消費者契約法に違反しないとされました。

会話風の判例解説

判例や判例の通常の解説は見慣れない言葉や文字が多く読みづらいというのが一般的です。少しでもわかりやすく使い慣れているLINEの会話風にてこの判決を説明します。

登場人物

賃借人X

賃貸物件の現在の借主

    賃貸人Y

    物件の所有者で貸主

      借主の主張と貸主の反論

      賃借人X

      入居時に鍵を新しく交換したんですが、その費用12,600円を私が支払いました。でも、これって本当に私の負担なのですか?

      賃貸人Y

      ええ、契約の時にその旨を説明し、合意してもらったはずです。鍵交換はあなたの安全のためにも必要なことですから。

      賃借人X

      仮に契約の時に説明を受けていたとしても、消費者契約法10条に基づき無効ではないですか?

      賃貸人Y

      契約書、重要事項説明書に賃借人が、鍵交換費用を賃借人が負担する旨が金額まで明記されて入居したでしょ?あなたの安全のためにもしたほうがいいでしょ?

      ※厳密にはハウスクリーニング費用に対しても争う姿勢で、判決では”鍵交換についてはハウスクリーニング費用と概ね同様”としています。

      裁判所の意見

      裁判所

      鍵交換の借主負担は消費者契約法第10条に違反するものではなく有効

      鍵交換費用に関して、賃借人と賃貸人の間で明確な合意があったことが確認できます。契約書や重要事項説明書に鍵交換費用の負担についての記載があり、賃貸人側からも口頭で説明があったとされています。

      鍵交換費用は12,600円で、実際の鍵のシリンダー費用との差額8,925円は不動産屋さんが技術料として取得したものであって、賃貸人が取得したものではないと、鍵交換費用として相応な範囲のものである。

      鍵交換は賃借人の安全と防犯上の利益に資するものであり、その費用負担についても合意が成立していると認められます。

      鍵交換費用判決のまとめ

      この判決では、賃貸住宅の契約において、鍵交換費用を賃借人が負担する旨の特約が有効に成立しており、消費者契約法に違反しないとされました。鍵交換に関しては、賃借人の安全を確保するための重要な措置として、その費用負担について賃借人と賃貸人の間で明確な合意があったことがポイントとなりました。裁判所は、このような特約が賃借人の利益を一方的に害するものではないと判断し、特約の有効性を認めたのです。

      国土交通省のガイドラインは?

      賃貸借物件の設備の壊れたら借主と貸主どっちが直すの?どっちがその費用負担をするの?という基準になっているガイドラインがあります。

      そのガイドラインには”紛失”の場合は借主負担と書かれています。つまり、紛失もしていないんだから借主負担はおかしいのではないか?という主張もあることでしょう。

      負担内容 賃借人の負担単位 経過年数等の考慮
      鍵の返却 補修部分
      紛失の場合は、シリンダーの交換も含む。
      鍵の紛失の場合は、経過年数は考慮しない。交換費用相当分を借主負担とする。

      このガイドラインは、契約終了時つまり退去時の原状回復についての争いを少しでも減らそうと作られたもので、入居時の鍵交換費用の負担は対象外となります。

      賃貸人に鍵交換の義務はないとした判例

      逆に入居者が鍵交換を求めて、それに応じなかった賃貸人に鍵を交換する義務はないとした裁判例もあります。

      借主からの鍵の交換請求について、貸主に交換義務はないとされた事例

      登場人物

      賃借人X

      賃貸物件の現在の借主

        賃貸人Y

        物件の所有者で貸主

          借主の主張と貸主の反論

          賃借人X

          この建物の玄関の鍵、前の借主が使っていたものと同じですよね?セキュリティのために、新しい鍵に交換してほしいんですが。

          賃貸人Y

          その鍵壊れてないよね?施錠に問題はないよね?交換する必要はないと思うよ。

          賃借人X

          でも、この間、誰かに侵入されたみたいで、物も盗まれたんです。鍵の交換をしないと、安心して住めないですよ。

          賃貸人Y

          その侵入されたって話、具体的な証拠はあるの?それに、私がこの建物を不特定多数に貸していたわけでもないし、鍵の交換義務はないと思うけど。

          裁判所の意見

          裁判所

          賃貸人に鍵の交換義務はない

          賃借人Xさんが鍵の交換を求めたのは理解できる。しかし、鍵に物理的な損傷がなく、施錠に問題がない以上、賃貸人Yさんに修繕義務違反があるとは言えない。また、住居侵入の事実についても、客観的な証拠が不足しており、Xさんの主張をそのまま受け入れることはできない。したがって、鍵の交換を賃貸人の修繕義務として求めることはできず、Xさんの請求は棄却する。

          ただし、賃借人の交代に際して鍵を交換することは望ましいとはいえる。国土交通省のガイドラインにもあるように、物件管理上の問題として賃貸人の負担とするのが妥当とされているが、本件ではその必要性が法的な義務として認められるほどではない。実務上、鍵の交換に関しては、賃貸人と賃借人が事前に合意することが望ましい。

          まとめ

          賃貸物件における鍵交換の費用負担に関する裁判例からは、入居時の鍵交換費用を賃借人が負担することについて、賃借人と賃貸人間での明確な合意があれば、これは消費者契約法第10条に違反しないとされ、有効と認められています。一方で、賃貸人には鍵交換の義務がないとする判例もあり、鍵の物理的な損傷がなく施錠に問題がない限り、修繕義務違反とはされません。しかし、賃借人の安全を確保する観点から、賃借人の交代時に鍵を交換することは望ましいとされています。

          いずれにしても、鍵の交換に関して賃貸人と賃借人が事前に合意することが望ましいです。

          鍵の交換はセキュリティが高くなっていくに連れ、どんどん高額化しています。後からトラブルにならないように、そういった事までしっかりと理解して説明をしてくれる不動産屋さんを選びましょう。