自宅を賃貸で貸し出す事を検討されている方であれば一度は耳にすることがある言葉かと思います。

「敷金精算の時にガイドラインではこのようになっています。」といった言葉を。

不動産屋をやっていると、このガイドラインが当たり前の言葉になりすぎてしまって、ついつい、細かい説明を抜きに「ガイドラインでは〜」と説明を初めてしまいがちになっています。

そんな不動産屋が口にする、ガイドラインとはいったい何のか?ということについてお伝えします。

ガイドラインとは?

そもそも”ガイドライン”とは何なのか?法律と違うのか?強制力はあるのか?といった事についてお伝えします。法律関係の説明をする際にはどうしても形式的な言葉が多くなってしまいますが、お付き合いくださいませ。

指針としての役割

ガイドラインは、特定の状況や活動において、どのような行動が期待されるか、または避けるべきかを明確にします。これにより、個人や組織は、適切な判断を下すための基準を持つことができます。

法的枠組みの補完

ある分野における法律や規制が存在する場合、ガイドラインはこれらの法的要件を補完し、より具体的な行動指針を提供します。これにより、関係者は法律をより効果的に遵守することができます。

自主的遵守の推奨

政府や規制当局が作成するガイドラインでは、法律上は強制ではないが、自主的に遵守することが推奨される基準が設けられていることがあります。

強制力のあるガイドライン

ガイドラインは、金融、医療、個人情報保護など、国の規制が存在する様々な分野で見られます。これらの分野では、ガイドラインに従うことがほぼ義務付けられているといえるようなものもあります。

例えば、金融業界では「金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」があり、これに従わない場合、法令違反と判断される可能性があります。

「しなければならない」「してはならない」といった強制的な記述が含まれることがあり、これらを遵守しなかった場合には法令違反と判断される可能性があります。

不動産業界でいうガイドラインは?

前置きが長くなりました。不動産業界で使われているガイドラインについての説明に入ります。

正式名称は、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインと呼びます。152ページに渡って、

不動産のガイドラインは、賃貸物件の特に原状回復の際の明確な基準を提供します。原状回復の定義から損害の負担割合、実際の事例に基づくQ&Aや裁判例まで、とにかくトラブルになりやすいものについて、貸主と借主双方に公平な取引を促し、トラブルを未然に防ぐための重要な基準になっています。

不動産のガイドラインの強制力は?

ガイドラインには法的拘束力がない事が明記されています。

ガイドラインは、あくまで負担割合等についての一般的な基準を示したものであり、法的な拘束力を持つものでもない

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

しかし、現実問題としては、昨今の裁判所の判断が、このガイドラインに沿って判決が出ているものが大半という状況になっており、法律と同じような効果を持ち始めていると言っても過言ではないでしょう。

特約を否定するものではない

“法律と同じような効果を持ち始めている”と伝えましたが、すべてをそのままガイドラインの通りにするという意味ではありません。

ガイドラインの内容を賃貸借契約書の特約にて上書きすることは可能であるとしています。

ただ、それもやりたい放題にできるわけではなく3つの要件を満たす場合でないと、争いとなった時にその特約に有効性が失われてしまいます。

特約を有効とするための3つの要件をわかりやすく
  1. ぼったくり価格でなく合理的理由が存在すること
  2. 借主が説明を受けてよく理解をしていること
  3. 借主が契約書にサインしていること

3つの損耗の考え方

ここからは少し具体的に原状回復をめぐるトラブルとガイドラインにどのような事が書かれているのかについてお伝えします。

まずは原状回復義務の考え方についてです。

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインでは、建物の損耗等を「価値が減少すること」と位置づけています。その価値を減少させるものを3つに分類しています。

損耗を3つに分類
  1. 自然的な劣化・損耗等
  2. 賃借人の通常使用により生ずる損耗等
  3. 賃借人の故意過失・善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗等

ガイドラインの原状回復の定義

法律関係の話をする時は「定義づけ」が非常に大切になります。そうでないと同じ基準で語る事ができなくなってしまいますので。

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインでもしっかり”原状回復”について定義しています。

原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

つまり、ガイドラインでは借主に原状回復義務が発生するのは、”賃借人の故意過失・善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗等”の修繕であるとしています。

簡単に伝えると、「普通に使っていれば借主に原状回復義務はないよ。でも、故意過失で壊れたり汚れたりしたものは借主負担で修繕するんだよ。」といった感じになります。

実際の負担表

すべてを書き出すことは難しいのですが、このようなことが書かれていますよという一部を紹介します。

床にどのような事がおきて損耗した場合貸主負担となって、どういった場合は借主負担となるものというのがわかれている表です。


項目 賃貸人の負担となるもの 賃借人の負担となるもの
【床(畳・フローリング・カーペットなど)】 1. 畳の裏返し、表替え
2. フローリングのワックスがけ
3. 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
4. 畳の変色、フローリングの色落ち
1. カーペットに飲み物等をこぼした
2. 冷蔵庫下のサビ跡
3. 引越作業等で生じた引っかきキズ
4. フローリングの色落ち
【壁、天井(クロスなど)】 1. テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ
2. 壁に貼ったポスターや絵画の跡
3. 壁等の画鋲、ピン等の穴
4. エアコン設置による壁のビス穴、跡
5. クロスの変色
1. 賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ
2. 賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミ
3. クーラーから水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐食
4. タバコ等のヤニ・臭い
5. 壁等のくぎ穴、ネジ穴
7. 落書き等の故意による毀損
【建具等、襖、柱等】 1. 網戸の張替え
2. 地震で破損したガラス
3. 網入りガラスの亀裂
1. 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
2. 落書き等の故意による毀損
【設備、その他】 1. 専門業者による全体のハウスクリーニング
2. エアコンの内部洗浄
3. 消毒(台所・トイレ)
4. 浴槽、風呂釜等の取替え
5. 鍵の取替え
6. 設備機器の故障、使用不能
1. ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
2. 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等
3. 日常の不適切な手入れ
4. 鍵の紛失または破損による取替え
5. 戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

まとめ

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについて伝えてみました。

賃貸の現場でどのように原状回復をめぐるトラブルとガイドラインが使われているのか、どのような立ち位置であるのか、強制力はあるのか?などご理解いただけたことかと思います。

自宅を賃貸に出すことを検討している方にとって、ガイドラインは賃貸物件の管理や契約におけるトラブルを未然に防ぐ効果があるものなんだという認識でいていただければよいかと思います。

自宅を貸し出して賃貸事業を行う上での資金計画をたてる際には、この原状回復をめぐるトラブルとガイドラインには目を通しておくことを推奨します。

とはいえ、157ページもあるので、目を通すことにもとても時間がかかってしまいます。この内容を要約して、それぞれにあったポイントだけを伝えてくれる不動産業者を探してみましょう。

その説明をいかに上手に行ってくれるのかという観点で不動産屋さんを選ぶというのはひとつの指針になることでしょう。