海外転勤を機に自宅を貸し出そうと考えている方へ。

先日までの記事で、一時使用賃貸借契約の基本とその契約を肯定する裁判例を2つ紹介しました。

転勤と自宅賃貸: 一時使用賃貸借契約を認めるの裁判例

海外転勤者の賃貸: 一時使用賃貸借契約を肯定する裁判例解説

今回も、店舗の明渡しについてなのですが、、一時使用賃貸借契約を肯定した裁判例を紹介します。

一時使用賃貸借契約の終了後に発生する可能性のある問題と、それにどのように対処するかに焦点を当てた別の重要な裁判例を取り上げます。

裁判の結論

平成10年7月15日/東京地方裁判所 の裁判例なのですがWebでは情報を見つけることができなかったので判例タイムズの情報を元にしています。

判例タイムズ No.1020

本件賃貸借契約は、平成五年七月一日から平成七年五月一五日までの間の一時使用のための契約であり、右期間の満了をもって、本件賃貸借契約は終了したものと認めるのが相 当である。

平成10年7月15日/東京地方裁判所

かなり複雑な人間関係の絡む裁判だったので、一時使用であることを認めた部分の引用です。

裁判の前提条件

一時使用賃貸借契約が肯定されたというだけで、情報としては十分かと思いますが、念の為どのような裁判だったのかもざっくりとですが紹介します。

登場人物

原告:貸主の法人(名前は明記されていません)

本件土地と本件建物の所有者。転売を目的に購入し一時的賃貸することにした。

被告:株式会社シャングリラ

原告から本件建物を賃借した企業。後に解散とみなされる。

被告:有限会社赤坂

被告シャングリラの営業を引き継ぎ、設立された企業。被告シャングリラの代表者が代表者として就任。

訴訟外:総合ディスカウントコンサルタント株式会社

最初に本件建物で営業を行うことになった企業。しかし、営業は不振に終わり、その後被告シャングリラに営業を引き継がれる。

訴訟外:アポロ産業株式会社

本件土地及び建物を購入しようとしたが、被告シャングリラが明渡しをしなかったため契約は解除される。

訴訟外:Aさん

後に原告と本件土地及び建物の売買契約を締結した人物。

これだけ、登場人物が増えると、もう理解する気がなくなることであろうとお察しいたします。もう少し裁判についての説明を続けます。

どのようなことで揉めていたのか?

貸主は物件の転売を前提に、一時的な賃貸を考えていました。

最初の賃借人は総合ディスカウントコンサルタント株式会社でしたが、営業不振に終わり、被告シャングリラが営業を引き継ぐことになりました。

被告シャングリラは解散とみなされた後、被告有限会社赤坂が設立され、本件建物の営業を引き継ぎました。

契約期間満了の約半年前、貸主は被告シャングリラに対して契約の更新意思がないことを通知しました。

貸主は、本件土地及び建物を転売するために買い手を探しており、一度は訴外アポロ産業株式会社と売買契約が成立しましたが、被告シャングリラの明渡し拒否により解約され、後に訴外Aさんと新たな売買契約を結びました。

どのような契約内容だったのか?

契約条件と賃料
  • 契約期間は平成5年7月1日から平成7年5月15日まで、つまり約2年間です。
  • 初期の賃料は月額72万1000円(消費税込み)でしたが、後に月額50万5000円に変更されました。

特約の存在

この契約には「本件特約」と呼ばれる条項があり、「本件建物は、賃貸人(原告)の売買商品で売却が予定されているため、契約期間満了時に売却される場合、契約は更新されずに終了する」と定められていました。

つまり、売却が決まったら賃貸借契約は終了という契約でした。

それぞれの主張

貸主と借主がそれぞれどのような主張を行っていたのかを箇条書きにて書き出します。

貸主の主張
  • 本件賃貸借契約は一時使用目的賃貸借であり、特約に基づき期間満了で終了した。
  • 売却が決定したことは更新拒絶の正当事由であり、賃貸借契約は終了している。
借主の主張
  • 本件賃貸借契約は一時使用目的ではなく、契約特約は一方的に不利で無効。
  • 更新拒絶の正当事由はなく、原告の売買契約成立主張は疑わしい。

裁判所の判断

裁判所の判断
  • 一時使用目的の賃貸借契約の認定: 契約締結の経緯と特約の内容から、一時使用目的の賃貸借契約であることを認定。
  • 契約期間の満了: 特約により契約期間満了で賃貸借契約は終了した。
  • 賃借権の消滅: 賃貸借契約期間満了により、被告の占有に正当な権原がない。

※賃借権の無断譲渡または転貸については関係がないので割愛します。

つまり、貸主側の一時使用賃貸借を認めたという判断をしました。

まとめ

海外転勤で自宅を賃貸に出す際、一時使用賃貸借契約の「解約予告期間が3ヶ月前でよい 」という点は、多くのオーナーにとって魅力的な選択かもしれません。しかし、この契約形態には、売却予定の不動産を対象とした際の特例など、特定条件下でのみ有効とされるケースもあることを理解しておく必要があります。

今回ご紹介した裁判例は、売却を前提とした特約が含まれる賃貸借契約において、売却が決まったことにより契約が終了すると判断された事例でした。ただ、やはり定期借家契約が成立する前の判決です。

海外転勤等で自宅を賃貸に出すことを検討している場合は、現代の法制度に即した定期借家契約を選択する方を推奨したいとあらためて感じております。

もし不動産の賃貸に関して、どの契約形式がご自身の状況に最適なのか迷われているなら、ぜひ私たちにご相談ください。一時使用賃貸借契約定期借家契約に限らず、あなたのニーズに合わせた最良の解決策を一緒に考えます。