海外転勤が決まって自宅を貸し出そうという方々で「一時使用賃貸借契約」という契約形態が候補のひとつにあがっているかと思われます。大手不動産会社がこの一時使用賃貸借契約を転勤者に推奨しているので、当然のごとく使えるかと誤解している人が少なくありません。

一時使用賃貸借契約は貸主にとって、大変使い勝手のよいものなので、これらをどのように活用できるのかを研究してきました。

それでも、やはり一時使用賃貸借契約はリスクを伴うものになってしまいます。そんなリスクの例として本日は一時使用賃貸借契約を否定した判決例を紹介します。

判決の概要

昭和30年代に建築された木造2階建てのアパートの一室を巡る裁判例です。

賃貸借契約が一時使用を目的としたものかどうかが争点となりました。

貸主は、2年間の契約期間満了時に借主が無条件で立退く旨の特約条項を契約書に記載しており、老朽化したアパートの建替え計画があるので、その時は退去する事も約束されていました。

それにも関わらず、裁判所は、計画の具体化の欠如や、借主が期間満了後も賃料を支払い続けている点、さらに借主の転居が困難であることなどを理由として、一時使用賃貸借であることを認めませんでした。

つまり、借主はそのアパートで暮らし続けることができたという裁判例です。

平成5年1月21日/東京高等裁判所/第7民事部/判決/平成4年 (ネ)17 19号

裁判までの経緯

契約内容から一時使用賃貸借を否定されるまでの経緯を書き出します。

建物とその経緯

裁判の対象となったのは、昭和30年に建築された木造2階建てのアパートの一室でした。このアパートは、老朽化しており、貸主は建替え計画をなんとなく持っていました。

契約内容

賃貸借契約書には、2年間の契約期間満了時に借主が無条件で立退く旨の特約条項が記載されていました。これは、貸主が将来的にアパートを建て替える可能性を念頭に置いた条件でした。

期間満了後の状況

契約期間が満了したにも関わらず、借主は賃料を支払い続け、アパートに居住し続けていました。

借主の事情

借主は高齢であり、病弱な状態で生活保護を受けていました。これにより、新たな転居先を見つけることが著しく困難であったとされます。

建替え計画の状況

貸主はアパートの建替え計画を持っていましたが、この計画は具体化していなかった。また、建替えの必要性が切迫していたわけではありませんでした。

一時使用賃貸借が認められなかった理由

契約書には期間を2年間とし、期間満了時に借主が無条件で立退く旨の特約条項が記載され、これを確認する趣旨の誓約書も提出されていたにも関わらず一時使用賃貸借契約を認めるためには不十分と判断されました。その理由について裁判所がどのように言ったのかを見てみます。

建替計画の具体化の欠如

貸主がアパートの建て替え計画を持っていたとしても、契約時にその計画が具体化していたわけではなく、老朽化による建替えの必要性が切迫していたわけでもありませんでした。

賃料の継続的支払い

借主は期間満了後も引き続き賃料を支払っていました。これは、一時使用の契約ではなく、借主が引き続き居住の意向を持っていたことを示しています。

正直ここは「そうなのか?」と感じるところではありますが。。。

転居の困難性

他にも転居が困難な居住者がおり、借主自身も高齢で病弱なことから転居が非常に困難であり、貸主の建替計画が具体化しない状況では、借主が賃貸借関係を短期で終了させることを承認する意向があったとは認められませんでした。

借主の居住の必要性

借主の居住の必要性が高く、貸主の解約申し入れには自己使用や他の正当な事由があるとは認められませんでした。

つまり、貸主のアパートを建て替えたいという必要性よりも、入居者が継続して居住する方を優先すべしという判断をしたというわけです。

まとめ

一時使用賃貸借契約は、貸主にとって柔軟な契約形態として魅力的に映るかもしれません。特に、海外転勤などで一時的に自宅を貸し出す際には、戻ったときにすぐに自宅に戻れるようにと考える貸主が多いでしょう。しかし、今回ご紹介した裁判例は、一時使用賃貸借契約が予期せぬリスクを伴う可能性があることを示しています。契約書に期間を定め、立退きの約束があったにも関わらず、建替え計画の具体性が乏しく、借主が継続して賃料を支払って居住していた事例では、一時使用賃貸借と認められなかったのです。

この裁判例から学ぶべき点は、一時使用賃貸借契約を結ぶ際には、貸主と借主の間で明確な合意が必要であり、特に貸主は計画の具体性を示し、借主の転居可能性や居住の必要性を十分に考慮すべきであるということです。契約を結ぶ前には、将来のあらゆるシナリオを想定し、リスクを最小限に抑えるための準備が必要です。賃貸契約は双方にとって公平であるべきであり、一方の便宜を図るためだけの契約は、最終的には両者にとって不利益をもたらす可能性があることを肝に銘じるべきでしょう。

最後に、一時使用賃貸借契約を考えている貸主は、このような裁判例を参考にし、不動産の専門家や法律家と相談することをお勧めします。