海外転勤の際に自宅を賃貸で貸し出す時「一時使用賃貸借」の契約形態が「3か月前に解約予告をすればよいから」と推奨されていることを前面に出す企業があります。この一時使用賃貸借契約は貸主側に都合のよいものではないので、一時使用賃貸借契約にて転勤する際は慎重になった方がよいということを繰り返し伝えてきております。

一時使用賃貸借について

私たちも可能であれば一時使用賃貸借契約を活用したいとは考えているのですが、そのリスクを被るのは、私たちのお客さんとなるあなたになってしまいます。そのため、私たちから積極的に一時使用賃貸借契約を推奨するということをしておりません。

そんな一時使用賃貸借を模索している中、一時使用賃貸借契約を肯定している最高裁まで争った判例がありますので紹介します。

昭和39(オ)143  家屋明渡請求昭和41年10月27日  最高裁判所第一小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所

判決の要旨

昭和40年前後の事例なので、今とは何もかもが違う状況なので、本当に参考情報のひとつにしかならないものですが、一時使用賃貸借契約の肯定をしている数少ない裁判例なので紹介します。

判決の理由の中で「転勤」と「一時使用を目的」というのが明らかであると断言されている判例です。

本件賃貸借は近い将来被控訴人が本件家屋から通勤し得る地に転勤して 来るまでとの意味で一時使用を目的としたものであることは明らかである。従って本件賃貸借に は借家法の適用がないと謂うべきである。なお、本件賃貸借には借地法の適用もないこと勿論で ある

判例タイムズ 199号 (1967年02月15日発売)

裁判の内容

まず、最初にどういった賃貸借契約だったのか前提条件を整理します。古い判決であるため情報量も多くはない中で必要と思われる箇所をピックアップしているので、正確性を書いている可能性があるという点はご理解ください。

前提条件
  • 貸主が昭和28年8月26日に所有の家屋を借主に賃貸した。
  • 契約期間は昭和28年8月26日から昭和30年8月25日までの2年間。
  • 賃料は毎月5,000円で、前月の末日までに支払うこと。
  • 敷金として金三万円が預託される。
  • 契約解除に関する特約が存在し、貸主が本件家屋から通勤できる土地に転勤してきた場合、契約書の存続期間にかかわらず一方的に解約できるとされた。

判決の概要

貸主は、自宅を借主に賃貸しました。契約期間、賃料、およびその他の条件は明確に定められ、契約書に記載されました。しかし、契約期間終了後、借主が家屋を明け渡さなかったため、貸主は家屋の明渡しを求める訴訟を起こしました。

各々の主張

貸主の主張
  • 賃貸借契約は一時使用を目的としていた。
  • 貸主は国家公務員であり、転勤が頻繁にあるため、転勤で戻った際に家屋を即時使用できるように特約を設けた。
  • 契約期間内にも関わらず、転勤で戻ってきたため、賃借人に対し家屋の返還を要求した。

借主の主張もありますが、無断転貸だったのではないか?など、一時使用賃貸借の内容とはかけ離れたものになってしまうので、割愛します。

裁判所の判断

冒頭の判決の要旨の繰り返しになりますが、裁判所は一時使用の目的であったことを認定し、借地借家法の適用も排除しました。

裁判所の判断
  • 本件賃貸借契約は、貸主が本件家屋から通勤し得る地に転勤してきたまでとの意味で一時使用を目的としたものであると認定。
  • そのため、本件賃貸借には借家法の適用がなく、また、敷地が建物所有の目的で賃貸借されたものではないため、借地法の適用もない。

借地借家法除外とは?

借地借家法の適用除外というのは、現代の借地借家法の一時使用賃貸借の場合にも規定が残っています。

借地借家法は賃借人の保護がかなり手厚いのですが、その手厚い保護の外側に行けるという規定です。

(一時使用目的の建物の賃貸借)

第四十条 この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない

第四十条(一時使用目的の建物の賃貸借)

定期借家で解決できるもの

こういった問題が多々生じる事が、定期借家制度を生んだ経緯です。

定期借家制度が施工されたのは平成12年です。それよりも前の時代では確かに一時使用賃貸借契約とするというのが、重要な論点であったと考えられます。

現代においては、ただいつ戻ってくるのかが不安定な転勤というだけで、一時使用賃貸借契約が認めて、借地借家法の適用をすべて排除するというのは、現代の法のバランスがあまりにも不自然になりすぎてしまい、揉め事に発展したら貸主側圧倒的に不利な立場になってしまいそうだなと。

不利な立場になるとどうなるかというのは、賃借人に出ていってもらうことができなくなるので、自宅に住むことができなくなるリスクを秘めているというものです。

そのようなリスクを犯してまで一時使用賃貸借契約を使うべきではなく、定期借家契約を使えば済む問題となります。

定期借家契約がなんであるというのは下記にまとまっていますので合わせて参照ください。

定期借家契約について

「解約予告は3か月前でいい一時使用賃貸借契約を使いましょう!」と、提案してる某大企業さんは何かイノベーションを興しているとかではなく、昔からの慣習からアップデートできていないというだけの悲しいものと言わざるを得ません。

まとめ

海外転勤で自宅を賃貸に出す際、「一時使用賃貸借」契約の利点として3ヶ月前の解約予告で済むという話を耳にされることもあるでしょう。しかし、この契約形式が貸主であるあなたにとって帰国後自宅に戻ることができないかもしれないという大きなリスクとなりうるということはあまり語られていません。

今回ご紹介した昭和41年の最高裁判所判決は、一時使用賃貸借契約を肯定する数少ない例として参考になります。この判決は、転勤や一時使用を目的とした賃貸借契約が、特定の条件下では借地借家法の適用を受けずに成立することを示しています。しかし、このようなケースは極めて特殊であり、何よりも判断基準として用いるには古すぎます。

現代では定期借家契約という新たな制度が定着しています。定期借家契約を利用することで、よりクリアな条件と期間での契約が可能です。

もしあなたが海外転勤を控え、自宅を賃貸に出すことについて迷われているなら、私たちに相談ください。一時使用賃貸借契約に関する疑問や、より適切な契約形式の選択について、専門的なアドバイスを提供します。

帰国後もスムーズに自宅での生活を再開できるように、私たちはサポートいたします。