転勤が決まり、転勤から戻ってきたら再度貸し出す自宅に住みたいという方々のために”一時使用賃貸借契約“というものがあります。

この一時使用賃貸借契約を締結するには貸主となるあなたには大きなリスクを伴うものとなってしまいます。そのリスクを少しでも軽減できるようにと一時使用賃貸借契約について様々な判例を紹介しています。

一時使用賃貸借契約の判例紹介まとめ

本日は契約書に一時使用と明記されているにも関わらず一時使用賃貸借契約が認められなかったという裁判例を紹介します。

店舗の話になるので必ずしも居住用と異なる点はあるものの、一時使用賃貸借の裁判例が多くはないので参考情報としては貴重と言えるでしょう。

「大阪地平3.12.10判決」判例タイムズ785号166頁以下(1992)

一時使用賃貸借契約を抜け道にするな!

いきなり読むのが嫌になるようなものからですが。。。。

つまり、一時使用賃貸借契約を借地借家法の抜け道的に使うべきではないという趣旨の事が書かれています。

一時使用を目的とした建物の賃貸借とは、その期間が比較的短期間と定められており、かつ、その賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借を短期間に限り 存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断されるような賃貸借をさすものと解せられ る。このことからすると、該賃貸借が一時使用を目的としたものであると認められるためには、 当事者が該賃貸借を短期間に限って存続させる旨の合意が立証されただけでは足りず、該契約が 締結された客観的な事情から、同契約を一時使用のためのものである(すなわち、借家法の関係 規定の適用を排除するだけの合理性のあること)と評価してよいことを基礎づける具体的事実が 立証されることが必要と解すべきである。なぜなら、賃貸借契約を記載した契約書等に一時使用の文言が使われ、賃借人がその賃貸借を一時使用のものとすることに合意したとの事実さえあれ ば、当該賃貸借はすべて借家法の適用のない一時使用のものであると解するとすると、借家法に 反する賃借人不利な合意をすべて無効として借家人の保護を図ろうとした同法の趣旨に反するこ とになるし、また、賃貸人は、賃借人の同意を取り付けて、契約書等に一時使用の文言を用いる ことにより、容易に同法の潜脱を図ることができるからである。

「大阪地平3.12.10判決」判例タイムズ785号166頁以下(1992)

わかりやすく説明

契約が一時使用を目的としていると認められるためには、単に契約書に一時使用の文言が記載されている、あるいは当事者間の合意があったというだけでは不十分です。契約締結時の客観的な事情をもとに、実際にその契約が一時使用に該当すると評価できる具体的な事実が必要とされます。

これは、賃貸借契約を不当に一時使用と位置づけることにより、借地借家法の適用を回避し、賃借人不利にするような行為を防ぐためです。借地借家法は賃借人を保護する目的で制定されていますので、その趣旨に反して法の適用を避けるために一時使用賃貸借契約を濫用することは適切ではありません。賃貸人が賃借人の同意を得て契約書に一時使用の文言を記載することにより、容易に法の適用除外を図ることができてしまうと、賃借人保護の趣旨が損なわれる恐れがあるため、このような慎重な解釈が求められるのです。

これが果たして”転勤”という貸主側の事情に一時使用賃貸借契約をそのまま当てはめてもよいのかという疑問が生まれてしまうわけです。

裁判の内容

いきなり結論部分から伝えてしまいましたが、どのような裁判だったのかをお伝えします。

貸主の主張

貸主の主張
  • 父がなくなり相続問題が発生してい るので、長期的に貸せる状態ではない。」と伝えていました。
  • 建物は老朽化しており、将来的に解体・新築の計画があるため、一時使用の契約だった。
  • 契約書に「一時使用のため」と明記されている。
  • 賃借人は契約の短期性を了解し、契約更新時にも「再延長の申し出はしない」と合意。

借主の主張

貸主の主張
  • 緘灸治療院の開設のために大規模な改装投資を行い、長期的な営業を計画。
  • 契約時および更新時に、原告から具体的な利用計画の説明がなかった。
  • 改装費用の投資や営業の実績から、一時使用ではなく長期の賃貸借を前提としていた。

契約の内容

契約の内容:当初の家賃は月額8万円であり、毎年10%の値上げが約定されていました。保証金は100万円で、明け渡し時の控除率が50%でした。更新時には、借主が新たに100万円を提供し、家賃の値上げ幅が年5%に変更されました。

契約の目的

貸主は、本件建物を一時使用を目的とした賃貸借契約であると主張しています。貸主側の事情としては、将来相続問題が解決した後に本件建物を取り壊し、事務所を建築する計画を有しておりました。しかしこの計画は具体化していない状態でした。

借主は、本件建物を改造し、治療院としての利用を目的として大規模な投資を行っており、長期にわたる利用を予定していました。

契約の性質

貸主は、契約が一時使用を目的とした賃貸借契約であると主張しました。これは、建物の解体や新築の計画があるため、短期間での使用が前提だったというものです。契約書にも「一時使用のためのもの」と明記されていることを根拠にしています。

一方で、借主は、長期にわたる営業のために大規模な投資を行っており、契約を長期間にわたって存続させる意図があったと反論しました。さらに、契約更新時の状況や、貸主が具体的な使用計画を持っていなかったことから、一時使用を目的とした契約ではなかったと主張しています。

改装費用として1,623,350円を費やしたほか、鐵灸治療院を営業するために調度品、治療器具等の購入及び広告代等に1,500,000円を超 える設備投資を行ったと主張しました。

なお、貸主はその改装工事の現場を訪れたりして、改装工事の規模及び概略の内容を認識していたとのことでした。

これらが、一時使用の契約であるとの認識に基づいた行動は取っていないと裁判所は強く捉えたようです。

契約の更新

契約は借主の要望により更新され、その際にも「短期賃貸借の期間についての特約」と記されており、期間が明確に限定されていましたが、実際の契約内容や双方の行動からは、借主が長期にわたって本件建物を使用する意向であったことが示されています。

裁判所の判断

裁判所の判断も理由をつけてざっくりとお伝えします。

一時使用目的の判断基準

本件契約が一時使用を目的とするものか否かについて、契約書に一時使用の文言がある、あるいは当事者間でそのように合意があったとしても、実際に契約が一時使用のためのものであると評価するためには、契約締結時の客観的な事情からそれを支持する具体的事実が必要であると判断しました。

貸主側の事情と計画の具体性

貸主側の事情として、本件建物を取り壊し事務所を建築する計画があったものの、その計画が具体化しているわけではなく、相続問題が解決し本件建物の利用計画が明確になったのは契約更新後のことであることから、契約締結時及び更新時において貸主が早期に借主から本件建物の明渡を受ける必要性があったとは認められないとしました。

借主の長期使用意向と改造投資

借主側の事情として、借主は本件建物を長期にわたる緘灸治療院の営業のために賃借し、大幅な改造を行って営業の基盤を確立していた。このような行動は、客観的に長期の賃貸借を予定したものと認められると断言しました。

契約内容の通常性

本件契約の内容(家賃、保証金、値上げ率など)が借家法の適用のある賃貸借と特に異なるものではなく、契約自体が借家法の適用を排除する特別な契約であるとは認められないと言いました。

一時使用賃貸借の否定

これらの理由から、本件契約が一時使用を目的としたものではなく、借家法の適用のある賃貸借であると一時使用賃貸借契約を否定しました。

まとめ

まとめとして、一時使用賃貸借契約を締結する際、契約書に「一時使用」という文言を記載するだけでは不十分であることが、明らかな裁判例でした。契約締結時の客観的な事情から、実際にその契約が一時使用に該当すると評価できる具体的な事実が必要であり、賃貸人と賃借人の間の明確な合意だけでなく、その契約が借地借家法の適用を排除するだけの合理性があるかどうかが重要視されます。

一時使用賃貸借契約を借地借家法の「抜け道」として濫用することは、賃借人の保護を目的とする借地借家法の趣旨に反し、適切ではありません。そのため、転勤などの理由で一定期間だけ賃貸したいと考える貸主は注意が必要です。

この判例は定期借家制度が作られる前の裁判例になります。

現代では、一時使用賃貸借契約ではなく、定期借家契約の利用を検討することが望ましいです。

定期借家契約については以下を参照ください。

定期借家制度のまとめ

定期借家制度でも、貸主は賃貸期間終了後に自宅に戻る計画を立てやすくなり、借主も契約期間内の権利が保護されるため、双方にとって公平で透明性のある取引が可能となります。

貸主が将来的に自宅に戻る意向がある場合には、定期借家制度を活用することで、法的なリスクを最小限に抑え、安心して賃貸することが可能となります。