本日他の会社が作成した定期借家契約の重要事項説明を行うために、定期借家の契約書関係に目を通して"もやっ"とした気分になったので筆を取っています。
明確な根拠規定があるわけではないので、着地点がしっかりしておりませんが、いつか何か問題になりそうだなと感じたため書き記しておくだけのものになります。
定期借家契約とは?
定期借家契約がなんであるのか?については、こちらを参照ください。はじめての賃貸だから入居者が不安?定期借家を活用しましょう。
通常の普通賃貸借では借主の立場が圧倒的に強いものでした。その強さは、貸主側に正当事由がない限り永遠と更新ができるという点です。この貸主側の"正当事由"と呼べるための要件障壁があまりにも高すぎて、貸主側から借主を追い出す事ができないものでした。
それが、定期借家契約にする事で、期間が来れば当然のごとく契約が終了するという名前のとおり期間限定の賃貸借というものでした。
"更新"と"再契約"は別物
定期借家契約が使われるようになったのは2000年頃になります。
不動産業界の賃貸部門は普通という名前の通り90%以上が普通賃貸借契約です。
定期借家契約の理解がままならぬ間に定期借家契約を大家さんに推奨している業者が少なくないなというのが今の不動産業界を見ていて強く感じることです。
定期借家契約であるにも関わらず、"更新"という言葉を使い続ける業者が少なくありません。定期借家契約の契約書にも"更新料は新賃料の~"という説明のままである契約書も目にしたことがあります。
"更新"は従来からの契約がそのまま続くという意味です。多少の条件変更がある可能性はなきにしもあらずですが、ずっと同じ契約であるという前提です。借主が更新を望めば原則更新し続けることが可能となっています。
一方、定期借家契約は期間の満了により当然に終了するものです。延長はありません。
定期借家制度は貸主に求められる正当事由制度をなくし、契約の更新をしないこととしたものです。なので、そもそも"更新"という概念がありません。貸主にとても強い権利が与えられたものです。
期間が満了したけど「もうちょっと住んでいいよ」となって、あらたに賃貸借契約を継続するのは、一見更新になりますが、従来の定期借家契約は終了して、再度新たに定期借家契約を結び直すという事をしています。
これを"再契約"と呼んでいます。
本来であれば、一度契約が終了するのだから、敷金の精算などを行って再度定期借家契約を結び直すというのが正しいのでしょうが、そのような面倒なことはいちいち行っていないというのが実状です。
再契約型定期借家の誕生
定期借家契約ですと借主保護が弱くなってしまいます。そのため賃料が相場よりも安めになってしまいます。それでも定期借家を活用しようと最先端を走っている大家さん達が試行錯誤しているうちに再契約型の定期借家なるものが自然発生しました。
「この物件は定期借家契約だけど再契約ができるよ」という募集方法です。
この「再契約ができるよ」というのを"再契約予約方式"や"再契約保証型"などと呼びます。
期間限定の契約である定期借家の意味がなくなってしまうという事で、予約型の定期借家、再契約の保証を無効にするべきだという声もありますが、何も根拠があるわけではありませんし、不動産業界で活用されているので、これ自体を否定するというのはナンセンスであると言わざるを得ないでしょう。
再契約の餌で借主を釣る
前置きが長くなってしまったのですが、もやっと感じた点をようやく伝えることができます。
再契約の予約、再契約の保証など呼び方は様々ですが、定期借家契約の期間が2年間で満了した後も再度定期借家契約を締結する再契約が"できる"という事に否定はまったくしていません。
ただ、その"再契約"するための条件というのが一切明記されていませんでした。本日目を通した重要事項説明書、賃貸借契約書に書かれていた再契約関係の文言は下記のみでした。
◆一般的な定期借家の契約終了通知についての文言
甲は、第1項に規定する期間の満了の1年前から6ヶ月前までの間(以下「通知期間」という。)に乙に対し、期間の 満了により賃貸借が終了する旨を書面によって通知するものとする。
◆再契約する際の条件
1.甲は、再契約の意向があるときは、第3条第3項に規定する通知の書面に、その旨を付記するものとする。
2.再契約をした場合は、第25条の規定は適用しない。この場合において、本契約における原状回復の債務の履行 については、再契約に係る賃貸借が終了する日までに行うこととし、敷金の返還については、明渡しがあったもの として前条第6項に規定するところによる。
再契約関係の話はこれらと"再契約料は新賃料の1ヶ月"という事以外はどこを見ても書かれていません。
"甲"というのは貸主です。この物件が通常どおりの定期借家で契約満了するものであればこれだけの記載で十分です。
ただ、この物件は"再契約ができる"という前提で賃貸に出ていたものなんです。つまり、予約型の定期借家契約です。
"再契約ができる"というのは口約束以外何もないというのが借主の立場となってしまう契約書でした。
再契約の予約が有効となる条件
再契約型の定期借家は否定されるものではないとお伝えしましたが、そのためには一定の条件が必要であると言われています。
それは「再契約をしない場合の条件」を定めることです。
普通賃貸借では正当事由に足らない小さな事情でも、それを"再契約しない条件"として定めることができるなど柔軟に活用できるというのが、従来の再契約型の定期借家であったのに、そういった事がいつの間にか空気の如く消えてなんとなく「再契約できる定期借家」というのが業界の通常になってしまっているなと感じました。
再契約の条件の例
例えば、このような条件を再契約につけることは可能であろうというものを引用しています。
甲(注・賃貸人)は乙(注・賃借人)に対し,乙が各号に定める再契約拒絶事由に該当しない限り4回の再契約による本契約締結日から10年間の使用収益の継続を保証するものとし,甲及び乙は,同期間中は本契約の期間の満了の日の翌日を始期とする新たな賃貸借契約(以下「再契約」という。)をするものとする。
一 乙が本契約期間中賃料を2月分滞納したとき
二 本建物において定めた館内規則中のゴミ出しのルールに違反し,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
三 騒音を発生させ,近隣住民等からのクレームを受け,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
四 悪臭を発生させ,近隣住民等からのクレームを受け,甲から2回以上書面にて注意を受けたとき
※秋山秀樹ほか著『空室ゼロをめざす 使える定期借家契約の実務応用プラン』
- 4回と再契約の回数の制限を明記
- 家賃の滞納を2回以上したら再契約しない
- もろもろの注意を2回以上しなければならないなら再契約はしない
と、普通賃貸借で更新を拒絶するための正当事由としては極小すぎる事由なんかを詰め込むことができます。逆にこういった"再契約できる条件"を明記しないいうのはあまりにも貸主都合すぎて、いつか問題になってしまうのではないかなと感じています。
保証型という呼び名に違和感
再契約予約型の定期借家であれば理解はできるのですが、"保証"という単語になってしまうとどうしても違和感は感じていまします。書籍によっては"保障"という漢字になっているものもあります。
お伝えしたとおり、条件があるのが前提であるにも関わらず「保証」という言葉は個人的には"釣り"に感じてしまいます。
特に、募集図面に"再契約可能"”再契約保証”といった文言はみかけますが、その条件までが明記されているのは15年の不動産屋さんの経験で一度もありません。
それで問題になった話は聞いたことありませんが、いつか問題が勃発しても不思議ではないなと感じました。
平成27年2月24日 定期借家契約が普通賃貸借になった判例
必ずしも"再契約に条件を"の内容とつながるわけではないのですが、定期借家の再契約するための条件の覚書を作成していたが、条件が不明瞭だから普通借家になりましたよという東京高裁の判決例はあります。
下記が定期借家終了の条件とされていたそうです。もちろん、定期借家契約のその他の条件は満たしていたと。
「A・Y間に紛争等がない場合は次回の契約を速やかに継続締結する。紛争等があり平和的に解決できないときは期間満了時点で契約は終了する」
定期借家契約の期間満了後、黙示の普通借家契約が成立したとし、その後締結の契約も普通借家契約の更新であるとされた事例
この条件がうやむやで、貸主は「定期借家期間満了だから出ていって」と言ったものの、だらだらを契約が継続して、「もうそれは普通借家だよ」と裁判所が言ったというものです。ざっくりすぎるので詳細は引用元を参照ください。
まとめ
個人的には日本の賃貸借契約の借主保護はあまりにも手厚すぎるので、こういった再契約型の賃貸借契約はもっと広まってほしいと考えています。
ただ、その再契約のための条件があまりにもあやふやなまま進められている定期借家契約が多すぎるなと感じています。日本という国だからこそ成立できているのであろうなと強く感じます。
定期借家契約は、貸主と借主双方にメリットをもたらす可能性がありますが、現状では多くの課題が存在します。これらの課題を解決し、より安全で透明性の高い賃貸市場を実現するためには、法的枠組みの整備、情報提供の充実、そして相談体制の強化が必要です。これらの取り組みを通じて、定期借家契約がより広く受け入れられ、賃貸市場が活性化することを期待します。