相続した物件を賃貸に出そうか、売却をしようか悩まれている方は少なくないかと思います。相続した物件を賃貸に出す時に比較的よくある誤解についてお伝えします。

相続登記が完了していないと賃貸に出せない?

Q
相続登記が終わってからじゃないと募集できないですか?
A

相続登記が行われていなくても賃貸に出すことは可能です。

相続したお部屋を賃貸に出す際に、お亡くなりになった方から相続人に名義変更する手続きを”相続登記“と呼びます。この相続登記を行っていない間は「まだ賃貸に出すことができない」と勘違いされている方が少なくないです。

結論をお伝えすると、相続登記されている方が好ましいが、相続登記未了の間でも賃貸に出すことはできます。

相続が生じた際に起きていること

相続が発生したら、その人が持っていた財産は当然に相続人に相続されます。

夫妻と子どもひとりという家族構成で、夫名義の不動産があり、夫が死亡してしまった場合を例にします。

相続登記をしようがしまいが、夫が死亡した時点で妻2分の1、子2分の1の割合で相続した形になっています。

登記というのは、あくまでも現時点の情報を公示しているだけのものに過ぎず、登記上お亡くなりになった方の名義のままでも、潜在的には、妻と子が所有者になっているという形になっているんです。

そのため、妻と子が「賃貸に出してもいい」ということであれば、賃貸に出して全く問題はありません。

遺産分割協議というもの

家族構成の例をそのままで説明を続けます。

夫が死亡したら、妻が単独の名義となっている不動産というのを見たことがあるのではないかと思います。先程「潜在的には妻と子が2分の1ずつ権利を持っている」とお伝えしました。

この潜在的な権利を修正するのが”遺産分割協議“というものになります。

遺産分割協議にて、妻と子が、「妻が不動産をすべて相続する」とすれば妻の単独名義にすることができるというわけです。

相続登記未了で賃貸に出すリスク

ここまでは「相続登記未了」でも賃貸に出すことは問題ない旨を伝えてきました。

その場合にリスクが生じます。これから伝えるリスクが問題ないと捉えることができるのであれば、賃貸に出して全く問題ないと考えています。

遺産分割協議は過去に遡る

相続の発生を令和6年1月1日とします。

相続登記未了でも不動産を賃貸に出せるからと相続登記未了のまま令和6年4月1日に賃貸に出したとします。賃貸人は妻となり、賃貸借契約書への署名捺印も妻のみが行いました。

令和6年7月1日に遺産分割協議で、「子が相続する」と決まりました。

そうなると、令和6年1月1日から、子はその不動産の所有者であったという形になります。

そうなると、令和6年4月1日の賃貸借契約はどうなるんだ?と心配になるかもですが、賃借人の立場を脅かすものではありません。賃借人はそのまま入居を続けることができます。

ただ、賃料の支払先が少しおかしな事になってしまいます。それらを修正しなければならないという手続きが発生するということが想定されます。

こういった事例は実は少なくなく。。。例えば子が未成年の時などに起こりやすいです。子が未成年であると妻と利益相反になってしまうので、家庭裁判所を通して、特別代理人を選任するという手続きが必要になるんです。

その時、家庭裁判所は子の2分の1分の法定相続分が確保されていないと、遺産分割協議を認めないというのが通常なのです。

なので、夫が死亡して妻が全部相続するという前提で賃貸借契約を締結したけれども、家庭裁判所から「子にも2分の1の持分を与えなさい」ということが言われたりします。

現実問題としてはこんな短期間に動くことはないですが、例えのひとつとしてでもご活用ください。

相続人が複数の時は注意

上記の例は妻と子と登場人物が少ないから、大きな問題に発展するということは少ないといえますが、相続人が数十人にもなることも少なくありません。

そうなった時とは、3年以内の短期賃貸借であれば共有者の過半数で賃貸に出すことができます。

(共有物の管理)

第二百五十二条 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。

 建物の賃借権等 三年

民法

共有者全員の同意が必要

基本的には不動産を賃貸に出すには共有者全員の同意が必要になります。

下記がその根拠条文になるのですが「賃貸」という言葉は出てきません。

一般的な賃貸に出すことは「変更」に分類されると最高裁判所がおしゃっているのでそれが通例となっています。

もともとこの規定しかなかったものが2023年の民法改正で加えられたのが先程の”3年以内の賃貸借なら過半数でよい”という規定になります。

(共有物の変更)

第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

民法

この”全員の同意“と”相続登記“を混在してしまっているから、相続登記後でないと賃貸に出せないという誤解が生じているのではないかなと感じています。

賃料の帰属はしっかり決めておく

みんなが賃貸に出していいと同意をしていたとしても、賃借人が相続人全員にそれぞれ賃料を支払うというのは現実的ではありません。

賃貸管理会社、保証会社に依頼したとしても、そういった会社の業務は「賃料はひとりに送金するもの」という前提で構築されているため、柔軟に対応してくれるところはないでしょう。

そのため、誰かが賃料を受け取る代表者となって、分配する役割を担うということにならざるを得ないというのが現実です。

遺産分割協議までは賃料は法定相続分でそれぞれに帰属し、遺産分割協議後はその相続した人に賃料が帰属するという論点もあるのですが、解説が長くなりすぎるので割愛します。

いずれにせよ「誰が賃料を受け取るの?」「どうやって分配するの?」「そもそも分配してくれるの?」という問題が生じる可能性があるので、賃貸借契約書とは別で、共有者間でしっかりと取り決めをしておくことが大切です。

親族間だからと、口約束のみでなくしっかりと書類にして残すことを推奨しています。

支払い関係で揉める可能性あり

賃料はもらうものなのでまだ前向きに話し合いをすることができると言えるでしょう。一方で、固定資産税をはじめとした税金や、物件の維持管理に関する管理費用の支払いもどのようにするのか?ということで揉め事に発展することは少なくないです。

固定資産税は共有者全員に支払い義務があるのですが、役所さんは納税通知書をひとりにしか送付してくれません。

分譲マンションであれば、建物の修繕積立金、管理費も同様で代表者をひとりにする必要があります。

さらには、室内の例えばエアコンが故障した際の修繕費用など。。。

どのようにするべきかというのは、賃貸借契約書とは別で共有者間でしっかりと決めておくことが重要です。こちらも口約束のみではなくしっかりと書類として残しておくことを強く推奨しています。

まとめ

相続した不動産をどうするか、賃貸にするのか売却するのか、多くの方がその選択に頭を悩ませています。

特に相続登記が未了の状態で賃貸に出すことに関する誤解が多く、多くの方が不必要に手続きを躊躇しています。しかし、相続登記が完了していなくても、適切な理解と準備があれば、不動産を賃貸に出すことは可能です。

私たちは、司法書士を通して不動産の相続登記のお手伝いをする事はもちろん、遺産分割協議書の作成や共有者間の取り決め契約書など、相続に伴う一連の手続きを全面的にサポートしています。

相続した不動産を有効活用したいと考えている方、賃貸にするか売却するかで迷っているのであれば相談ください。

相続の専門家が、あなたの不動産の最適な活用方法を一緒に考え、サポートいたします。