司法統計が発表され、「相続放棄が増えている」という報道がありました。

相続放棄、過去最多26万件 空き家増え、対策課題

全国での相続放棄の受理件数が増加しているというのが報道のうちのひとつでした。

全国の家裁で受理件数が増加。司法統計で19年は22万5416件、20年が23万4732件、21年が25万1994件だった。

相続放棄、過去最多26万件 空き家増え、対策課題

また、「空き家に関わりたくない」という点にも注目されています。

人口減少や過疎化が進む中、専門家は空き家となった実家を手放したり、縁遠い親族の財産を受け取らなかったりする例が目立つと指摘。

相続放棄、過去最多26万件 空き家増え、対策課題

この報道を見て、相続不動産を取り扱っている私たちからの視点から感じたことをお伝えします。

2022年のデータ

いきなり皮肉のようなことからになりますが。。。

2024年4月9日に発表された司法統計データです。

「ん?」と首をひねってしまいますが、2022年のデータです。

裁判所は忙しいでしょうし、継続している事件も多々あるかと思いますし、司法の統計データを不動産の路線価などのように早く公表する必要性が低いとはいえ、情報が目まぐるしく変わる現代、情報処理能力も格段に向上している現代においてあまりにも遅すぎるのではないかと感じざるを得ないですね。

日本の裁判は時間がかかりすぎると言われていますが、こういうところにも現れているなと。

最も、こういうのを改善しようとなったら「じゃあ増税しましょう」という流れになるわけですが。

本当に相続放棄は増えているのか?

報道を見る限り、いかにも相続放棄が急増しているかのような印象を受けました。

記事の中に”19年は22万5416件、20年が23万4732件、21年が25万1994件”とあるにも関わらず、タイトルに”過去最多”という言葉があるため、そこにイメージがひっぱられてしまったのでしょう。決して急増しているわけではなく、増加傾向ですよねという印象でした。

増加傾向となると。。。人口も増加しているわけだから単純にお亡くなりになった人が増えたわけだから、お亡くなりになった人に対して相続放棄を選択する人の割合もそれに伴って増えただけなのではないかな?と感じたのでいろいろな統計を調べてみました。

お亡くなりになられた方に対してどれくらいの割合で相続放棄しているのかなというのを2011年から2022年までを調べてみました。

時間軸(年次)死亡数【人】相続放棄割合(%)
2011年1,253,06848,9814%
2012年1,256,35946,2274%
2013年1,268,43862,6035%
2014年1,273,025149,37512%
2015年1,290,510189,29615%
2016年1,308,158197,65615%
2017年1,340,567205,90915%
2018年1,362,470215,32016%
2019年1,381,093225,41616%
2020年1,372,755234,73217%
2021年1,439,856251,99418%
2022年1,569,050260,49717%
死亡人数に対する相続放棄をした件数の割合

相続はお亡くなりになった方に対して、1人だけが相続人であるという可能性は低く、2~3人である事が最も一般的であると言えます。そのため、お亡くなりになった人数に対して、相続放棄をした人数の割合は単純に捉えることはできないものですが、参考数値として見る分には問題ないでしょう。

まず、割合だけで言えば2022年「最多だった!」と報じられるのに対して、前年の18%に対して17%と減少はしています。

2013年から2014年の急増は、データの集め方か何かが変わったのではないかな?と思われる変化だなと感じています。

2009年にiPhoneが日本に上陸し、定着したのが2010年頃であったため、一般の人が受ける情報量が増えたからかもしれないという仮説も考えたりはしました。

相続放棄が増加傾向であるというのは間違いはないかと思いますが、恐怖を煽るほどの増加傾向であるとは思えないというのが正直なところです。

普段相続手続きのお手伝いをしている限りでは、「そんなに多いかな?」と感じるくらいの割合です。

空き家が原因?

この報道で「地方の空き家が増えて関わりたくないから相続放棄をする人が増えた」という点もピックアップされていました。。

「縁遠い親族の財産を受け取らなかったりする例が目立つ」というのから、ドミノ倒し的な相続放棄が多いのであろうなというのは、想像が付きます。

田舎にある実家。子供が相続放棄をすると、それが尊属が相続することになるのですが、尊属が死亡しているとお亡くなりになった方の兄弟姉妹に相続権が移ります。その兄弟姉妹までお亡くなりになっていると、お亡くなりになった方の甥や姪に相続権が移ります。

最初に相続放棄をした、亡くなった方の従兄弟にあたる関係の方々です。

今お亡くなりになっている80歳~90歳くらいの年代の方々は兄弟姉妹が本当に多い時代だからこのようになっているのであろうなと。

最近携わった案件でこれくらい関係者が増えてしまっているものがあったりしました。

このような流れで、「相続放棄が増えている」となると。。。「わかる」の一言です。

相続放棄って3ヶ月以内じゃないの?

少しネットで調べると「相続放棄は3ヶ月以内に!」という情報がたくさん出てきます。それを考慮すると、お亡くなりになった方の子供が相続放棄をして。。。その兄弟姉妹が。。。という時点で3ヶ月などあっという間に経過してしまいます。「なんで空き家を相続放棄できるの?」と感じられる方も少なくないことでしょう。

実は、この相続放棄の3ヶ月というのは、お亡くなりになってから3ヶ月以内という意味ではないんです。

「相続開始を知ってから3ヶ月以内」という決まりになっています。

これだけだとまだイメージしづらいですね。

自己のために相続の開始があったことを知ったとき」が起算点になります。

例えば、自分の兄が死亡したとします。甥っ子が相続人だからいいやと特段気にもとめていなかったとします。甥っ子は相続放棄をしていました。甥っ子は相続放棄したことを叔父に伝える義務はないですから放置していました。

ある日突然借金取りから手紙が届いて自分が相続人になったことを知るということは少なくありません。

そんな人に、死亡から3ヶ月という期限ではあまりにも厳しすぎるというのは想像できるかと思います。

空き家についてもそのような感じである日遠い親族の誰かから「手続きをしましょう」と手紙が来たりします。その時に初めて自身が相続人であると気がつくと。

そのような流れで、相続放棄の件数が増加傾向になっているのであろうなと感じました。

まとめ

ただの報道を見ての感想だけになってしまいました。

相続の現場にいて感じることは、相続放棄という言葉は、一般の方と相続に携わっている人とでイメージが隔離しているなと感じることです。

「相続放棄」とひとことで簡単に言いますが、家庭裁判所を通さなければならない厳格な手続きです。

もしも、相続放棄でお悩みでしたら、ひとりで悩まずにお気軽にご相談ください。