2018年に民泊新法が施行されたことで、日本の宿泊業界に新たな波が押し寄せました。多くの人がこの変化にどのような影響があるのか、そして日本の民泊市場がどう変わっていくのかを注目していました。しかし、予想もしなかったコロナウイルスの世界的大流行が起こり、この新しい市場は予期せぬ挑戦に直面しました。

2023年、コロナウイルスが5類感染症に移行し、世界が徐々に新たな日常に適応し始める中、日本の民泊市場も再び活気を帯び始めています。規制緩和の兆しと共に、民泊への参入障壁が低くなる予定なので、新たな機会に乗り遅れないようにと、一定の盛り上がりを見せています。

ただ、個人的には世界的な流れから、民泊の未来は全く明るいものではないと感じています。それについてお伝えします。

ちょうど私たちの募集をしている物件でも「民泊としても使っていいよ」と言ってくれているオーナーさんもいらっしゃるので、その物件と共に紹介します。

民泊の定義

実は民泊の明確な定義というのは法律では定められていないというのが現状です。

「民泊新法」という言葉をよく耳にするのではないかと思われます。これは厳密には”住宅宿泊事業法“という法律になります。本日はこの住宅宿泊事業法についてお伝えする形になります。

簡易宿宿も民泊に含んで語る方も少なくないのですが、あくまでも住宅宿泊事業法に限っての話としてお伝えします。

規制が強すぎる日本の民泊

住宅宿泊事業法が施工された2018年、「民泊が儲かりそう!」と民泊事業への参入を試みる人たちで溢れかえっていました。ただ、現実は、住宅宿泊事業法が施行されたことにより日本国内の一部の地域では民泊の制限がとても厳しくなったという状態でした。

分譲マンションでの民泊は不可能に近い

住宅宿泊事業法が施行される以前、多くの人が自分のマンションの一室をAirbnbに掲載し、単なるお小遣い稼ぎを超える収入を得ていた時期がありました。しかし、購入したのマンションに見知らぬ人、特に外国人が頻繁に出入りすることに対する懸念が高まり、首都圏を中心に多くの分譲マンションで民泊を禁止する管理規約が次々と導入されました。その結果、現在では分譲マンションでの民泊はほとんど不可能な状況になっています。民泊の主要なプラットフォームであるAirbnbも、無許可での民泊に対して厳しい対応を取るようになりました。

このような状況の中、民泊を事業として考える場合、選択肢は「戸建て」に限られるようになっています。これが、現在の東京をはじめとする首都圏における民泊事情の実態です。

新宿区の民泊可の物件

今回オーナーさんに「借主さんが希望するなら民泊で使ってくれてもいいよ」と言っていただけている物件です。

最寄り駅は大江戸線の西新宿五丁目駅の閑静な住宅街にある戸建てです。

それぞれの地方公共団体で民泊のルールは異なります。新宿の場合はまずは、物件所在地から用途地域を調べます。”第2種中高層住居専用地域”であることがわかりました。用地域に”住居専用”の文字があります。

この時点でこの戸建てで民泊として活用することができるのは、”金曜日の正午から月曜日の正午まで”というのが新宿区のルールです。

少しわかりづらいので。。。金曜日のお昼の12:00からチェックインできて、月曜日のお昼の12:00までにチェックアウトさせなければならないという形を取らないとルール違反になってしまいます。

仮に、用地域に”住居専用”の文字がつかなかったとしても、新宿区で年間360日のうち180日間しか民泊として活用してはならないというのが新宿のルールになります。

もちろん、ホテルであっても360日全ての日が満室になるというところは稀でしょう。それでも、稼働する事ができる上限が180日というのは、それを事業の中心とするのには、なんとも難しいと言わざるを得ないでしょう。

江東区の民泊可の物件

江東区錦糸町という好立地でもオーナーさんより「民泊として使いたい人がいるなら使ってくれていいよ」と言っていただけている物件があります。

江東区の制限はもっと厳しい

新宿区の場合は用途地域を調べました。江東区で民泊をやりたいという場合は、その調査も不要となります。なぜなら、用途地域に関係なくどのエリアであっても、”金曜日の正午から月曜日の正午まで”という制限がつくためです。

墨田区の民泊

墨田区でも「民泊使ってくれていいよ」と言っていただけている物件を預からさせていただいています。

墨田区も用途地域を調べる必要はありません。こちらは江東区の規制とは逆で、区独自の規制を何も設けていないためです。住宅宿泊事業法の基本さえ守ればよいというのが通常になります。

東京23区の中では、墨田区のほかは、豊島区、北区、葛飾区、江戸川区が同様に上乗せの規制は設けていないという状態になっています。

規制がないとはいえ、年間で180日までしか営業をする事ができないという現実はあります。

あまり儲けの期待をもてない民泊

年間180日という運営制限が設けられていること、そしてその他にも多くの規制が存在することから、自己所有の物件がない限り、または非常に低価格で物件を手に入れることができない限り、住宅宿泊事業法に基づく民泊から高い収益を得ることは難しいというのは想像できるかと思います。

にもかかわらず、「民泊市場がこれから盛り上がる」という報道が後を絶たないのは興味深い現象です。不動産業界に身を置いていても、「この物件は民泊に使えますか?」という問い合わせが絶えないのがその証拠です。

円安の影響でインバウンド需要が高まっていることが一因かもしれません。日本の観光業を支え、インバウンドの流れを維持するために、民泊に対する否定的な声はあまり聞かれません。

しかし、世界的に目を向けると、多くの国で民泊に対する規制が強化されている流れとなっています。

規制が強化されている世界の民泊

エアビーなど民泊、NY市が規制強化 「事実上の禁止」

特にAirbnbの発祥国であるアメリカのNYでの規制の強化は群れを抜いていると言える状態になっています。

NYで民泊で人を泊めるなら、家主も一緒に泊まらなければならないという、赤の他人と一つ屋根の下で過ごさなければならないという規制に、泊めていい人数の上限を2人に制限するなど、実質的には民泊が禁止されているのではないか?という状況になっています。

その他にAirbnb発祥地でもあるサンフランシスコではサンフランシスコにおいては、日本の半分である年間90日までしか稼働できないという規制などもあります。

なぜ民泊の規制が強化されている?

なぜ民泊の規制が強化されていく流れになっているのか?について考えてみます。

NYの家賃が高騰化しているというのは有名な話です。その原因のひとつそてい民泊があるのではないかと言われています。

原因はエアビーアンドビーか NY市の家賃高騰

David Wachsmuth教授の調査研究によれば、Airbnbによってニューヨーク市内の長期賃貸価格は、年間1.4%もしくは384ドル引き上げられたと推定されている。

AirbnbによってNY市内の賃貸価格が上昇

オーナーさん側の立場からすると家賃が上昇するというのはいい傾向と捉えるかもなのですが、市区町村や国などの視点からは、中低所得者層の負担比率が大きくなりすぎてしまうという現象がおきてしまいます。

国全体の所得割合で言えば、中低所得者の割合の方が圧倒的に多くなるため、結果的によくないであろうという流れになっていると考える事ができます。

まとめ

民泊市場の将来は、国内外での規制強化の動きを考慮すると、必ずしも明るいものではありません。特に、年間180日の運営制限やその他の規制は、高収益を目指すには大きな障壁となっています。にもかかわらず、民泊市場が盛り上がるという報道や、不動産業界での関心は依然として高く、インバウンド需要の増加がその一因となっているようです。

しかし、世界的に見ると、民泊に対する規制は強化される一方です。ニューヨークやサンフランシスコなど、Airbnbの発祥地でさえ、民泊の運営に厳しい制限を設けています。これらの規制強化の背景には、家賃の高騰や中低所得者層への影響など、社会的な問題が指摘されています。

日本においても、インバウンド需要の増加を背景に民泊市場を盛り上げようとする動きがありますが、世界的な規制強化の流れを見ると、将来的に痛い目を見る可能性があることを念頭に置く必要があります。

民泊市場の活性化は確かに魅力的ですが、長期的な視点から、持続可能な観光業の発展と地域社会への影響を考慮することが重要です。

日本の民泊市場が直面する課題と機会を冷静に評価し、賢明な対応策を模索することが求められています。