自宅を購入された際に、「購入転勤とかで引っ越さなければならなくなった時、自宅を賃貸に出せばいいんですよ」などと、不動産屋さんから営業を受けた事がある方は少なくないのではないでしょうか?

この営業言葉は非常に無責任な言葉だなと常々感じております。

「無責任な言葉」と感じる理由は様々ありますが、特に一度普通賃貸借で賃貸に出すと自分の都合で入居者さんに出ていってもらうのが困難であるというのがひとつの理由です。(他にも様々あります)

そんなひとつの典型例として、芸能ニュースになってしまうのですが下記のような報道がありました。

《のりピー立ち退き裁判に決着》酒井法子「家賃10万円アパート」に10年以上も暮らし続ける裏事情「適正価格の3分の1」

芸能部分に関しては触れず、貸主が借主に出ていってもらいたくても、出ていってもらうのがいかに難しいのかを知っていただく例として伝えてみたいと考えています。

何が起きていたのか?

すべてが週刊誌報道を元にしているものなので、どこまでが真実であるのかは定かではありませんが、どのような事がおきていたのかの流れをまとめました。

流れ
  • 借主は、女優の酒井法子さん
  • 貸主は建設会社「T工業」
  • T工業の創業者であるT氏は、酒井法子さんの継母の40年来の友人
  • 酒井法子さんを援助してきた人物
  • T氏が2012年に肝臓がんで亡くなった
  • 彼の長男がT工業を継いだ
  • T工業は酒井法子さんを提訴し、建物明渡請求事件が東京地裁で審理されていた
  • T工業は酒井法子さんに対し、「貸したことは一度もない」と主張
  • 酒井法子さんは賃貸借契約に基づき月10万円の賃料を支払っており、契約の存在と自身の契約上の義務を果たしている事を証明するため裁判所に賃貸借契約書も提出
  • T工業はその他に、契約書にX工業の実印が使用されていない、または賃料が適正価格に対して低すぎると主張

あまり触れられていませんが、賃貸借権は相続されます。貸主が法人であったのか、個人であったのかが定かではないです。

裁判所の判断

裁判所の判断とは言っても、やはり週刊誌が元の情報なので真偽のほどはなんとも言えませんが、読み取れることを書き出しました。

裁判所の判断

契約の存在

裁判所は、酒井法子さんとT工業間で賃貸借契約が結ばれていたと認定しました。

契約書の真正性

酒井法子さんが提出した賃貸借契約書の真正性について、裁判所はこれを認め、契約の有効性を支持しました。

第一審判決

令和元年10月17日に、裁判所はT工業の請求を全部棄却する判決を下しました。

控訴審判決

令和2年5月27日に、裁判所はT工業の控訴を棄却する判決を下しました。

最終判決

令和3年1月22日に、最高裁判所はT工業の上告を棄却し、上告受理申立を不受理とする決定を下しました。

貸主からの退去要求は困難

細かな理由、真実まではわかりませんがこの報道を見て不動産業に従事している方々であれば「そりゃあそうらるだろうな」と感じられた方が大半であるのではないでしょうか。

それくらい、日本の賃貸借契約は借主が保護されています。

「契約書に実印押されていないからが偽造されたものではないか?」とT工業は訴えたようですが、契約書に実印を使う方は滅多にいないというのが現状ですし、賃貸借契約において実印を求めるというのは求め過ぎだなと感じるので、それでよいと考えています。

普通賃貸借契約で借主に退去していただくには正当事由が必要となります。その正当事由について令和になってからの裁判例をまとめていますので参照ください。

不動産を賃貸に出す前に:普通賃貸借で退去を求める正当事由

定期借家という選択肢

普通賃貸借であれば、確かに借主を退去させるというのは困難です。ただ、それはあくまでも普通賃貸借契約であるためです。

こういったことにならないように、借地借家法は定期借家契約というものを用意してくれています。

転勤をして「またその家に戻りたい」という想いが少しでもあるようであれば定期借家契約を選択すべきであると考えています。

定期借家契約ですと、大家さん側が少し強くなってしまうので、その分賃料は相場よりも低くならざるを得ないという欠点はあります。

自宅を貸し出す時、何をもっとも重視するのかによって選択するようにする必要があります。

定期借家契約についてもまとめていますので、ぜひとも参照ください。

定期借家契約についてのまとめ

まとめ

自宅を購入し、その後の転勤や引っ越しで自宅を賃貸に出すことを考える人は少なくありません。しかし、普通賃貸借契約によって自宅を賃貸に出す際には、入居者に退去してもらうのが困難であることを理解しておくことが非常に重要です。この点は、不動産取引においてよくある誤解の一つであり、不動産業者からの説明が不足していることが原因で発生することがあります。

自宅を賃貸に出す際は、事前に正しい知識を持った不動産屋のアドバイスを求めることが極めて重要です。特に、定期借家契約のように、あらかじめ契約期間を定めておくことで、将来的に自宅に戻る予定がある場合や、何らかの理由で入居者に退去してもらう必要が生じた際に、スムーズに対応できる選択肢もあります。定期借家契約には、普通賃貸借契約に比べて一定の制約はありますが、自宅を賃貸に出す目的や条件に応じて最適な契約形態を選択することができます。