賃貸物件を借りる際に様々な情報がWebで見ることができるようになりました。しかし、その中には必ずしも「正しくはないかな。。」という情報も見受けられます。

そんな情報の中に「賃貸物件の保険は自分で選んだものに加入できる」という情報が必ずしも正しくないものが出回っているなとの印象を受けています。

実際に賃貸物件の保険の加入が指定されたもので強制加入にも合理的な理由があるという裁判の判決例があるので紹介します。

賃貸の保険契約の加入強制を認めた裁判例

令和2年と比較的最近の裁判です。

ハウスクリーニング特約、フリーレント特約の開始日設定等が無効であるとした、賃借人の主張が棄却された事例

厳密には、賃貸の保険への加入強制が焦点といえるまでの裁判ではありませんでした。賃借人が訴えたのは下記の3点です。

訴えた3つのこと
  1. ハウスクリーニング特約
  2. フリーレント特約の開始日の設定
  3. 賃貸入居者総合保険への強制加入

これらが無効であるとして、賃貸人に対して敷金の返還と損害賠償を求めたという訴えでした。

前提条件

平成29年2月、賃借人Xは不動産業者Yの所有するマンションを賃借しました。契約時にハウスクリーニング特約、フリーレント特約、賃貸入居者総合保険への加入が契約に含まれていました。

それぞれの主張

賃借人X

ハウスクリーニング特約やフリーレント特約について事前の説明がなく、合意の上での加入ではありません。また、保険への強制加入不当です。敷金を返して損害を賠償してください。

賃貸人Y

契約書にはすべての特約が明記されており、合意のもとで署名しています。保険への加入も賃貸物件の安全を確保するために必要な措置です。

裁判所

裁判所の判断(保険の部分のみ)

  • クリーニング特約: 明確に契約書に記載されており、賃借人Xが全額を負担することが合意されていたため有効。
  • フリーレント特約: 明確な合意があったと認められ、有効。
  • 保険契約の加入強制: 賃貸人Yが保険会社を指定することには合理性があると判断され、Xの請求は棄却された。

賃貸人が賃貸物件を保障対象とする保険の選択を賃借人に委ねず、代わりに特定の保険会社への加入を強制した点が争われました。裁判所は、賃貸人が指定する保険への加入を強制することに一定の合理性があると判断しました。

賃貸物件の保護

賃貸物件は賃貸人の資産であり、その保護は賃貸人にとって極めて重要です。

賃借人が任意で保険に加入する場合、十分な保険保障がなされないリスクがあります。

これにより、事故や災害が発生した際に賃貸物件が十分に補償されない可能性があり、賃貸人の資産を守る上で不利となります。

利益の保護

賃貸人が指定する保険会社への加入を強制することで、賃貸物件に関するリスク管理を統一しやすくなります。

これにより、賃貸人は自身の資産と利益をより確実に保護することができます。

契約書に明記されていなければよい

Webに溢れている「賃貸物件の火災保険は自分で選べる」というのは、契約書に”特定の保険会社への加入の強制”がなければ問題なく行ってもよいとは考えています。

仮に契約書に明記されていても、大手法人契約で、法人が加入している保険でもよいというのが認められる場合は比較的多いです。

大した金額さにはならない

個人で保険を選ぶというのはなかなか大変なものです。仮に契約書に保険会社の指定がなくても、保険会社で勤務していたり、懇意にしている保険屋さんがいたり、保険関係の隣接業などでよほど保険に精通していない限り、自分自身で保険を選ぶというのは避けた方がよいと考えています。

「予算に合わせて保険を組むことができる」などと綺麗事が並べられていますが、仮に自分で見つけてきた保険であっても支払う金額は大きくは変わりません。2年間で2万円弱というのが一般的でしょう。

地震保険を付帯したい時はなおさらで、地震保険はどこで加入しても同じ金額になりますので。

「保険どうしよう」「借家人賠償責任ってなに?」「上限金額はどうすればいいの?」などひとつでもあやふやなところがあれば、それを学ぶために時間を費やすよりも進められた保険に加入しておくことを推奨します。

保険会社からバックマージン

不動産屋というと、キックバックやバックマージンなどで汚く儲けているという印象を抱かれている方は少なくないでしょう。

賃貸の際に加入する保険にもバックマージンを頂いているというのが事実です。

「不動産屋が汚く儲けている」という印象は、キックバックやバックマージンの金額が高額になるためでしょう。下記の案件では何千万円も金額をのせたりしているから、そのような印象を受けるのでしょう。

UP-Fコンサル株式会社の精巧な偽サイトと書類偽造:不動産業界の不正融資

ただ、火災保険の不動産屋がいただけるバックマージンは数千円が通常です。2年間で15,000円くらいだとしたら60%の9,000円をいただけたら嬉しい!という可愛いものです。

この程度のバックマージンのために、決して保険の加入を進めようとはならないのが通常です。

塵も積もればなので、その金額を馬鹿にするというわけではないのですが、それだけのために交渉をしたり、入居者が自分で見つけてきた保険を確認してその内容が大家さんの家に何かあった時に必要十分かどうかを確認する手間に対しての費用対効果が悪すぎるという事になってしまうんです。

そういったこともあり、裁判所は「リスク管理を統一しやすくなる。」と言ってくれました。

この裁判の内容がもっと広がってほしいなと願うばかりです。

まとめ

賃貸物件における保険の加入に関する裁判例は、賃貸契約において保険の強制加入がなぜ合理的であるのかを示す貴重な事例となっています。この裁判は、賃貸人の資産と利益を保護するために、特定の保険への加入を強制することが、法的にも支持される合理的な行為であることを示しています。さらに、賃貸物件に関連するリスク管理の観点からも、このような契約条件が設けられることの意義を理解することが重要です。