ご自宅を賃貸で貸し出しているオーナーの皆さんにとって、不安になりがちな点として、ある日突然借主との連絡が取れなくなることもあります。特に、長期間連絡が取れなくなった場合、部屋に残された荷物の扱いに頭を悩ませることもあるでしょう。
そんな時、オーナーさんが取るべき行動とは何か、そして、どのような法的な配慮が必要になるのか。今回は、賃貸物件のオーナーさんが借主と連絡が取れなくなった際の荷物の処分について、重要なポイントをお伝えします。
勝手に荷物を処分することがなぜ許されないのか、その理由と法的な背景について、具体的な裁判例をもとに解説していきましょう。
室内の物を勝手に処分したら損害賠償
借主が逮捕されて連絡がつかなくなったので、借主の緊急連絡先であった借主の実母に許諾を取って、室内のものを処分したら、借主から損害賠償請求をされ、貸主が慰謝料として30万円を支払うことになったという判決があります。
会話風で判決説明
判例や判例の通常の解説は見慣れない言葉や文字が多く読みづらいというのが一般的です。少しでもわかりやすく使い慣れているLINEの会話風にてこの判決を説明します。
登場人物
逮捕され連絡が取れなくなった借主
物件の所有者で、賃借人Xの居室内の動産を処分した貸主
賃借人Xの緊急連絡先として登録されていた人物
それぞれの主張
Xさんと2ヶ月ほど連絡がとれないんです。どうやら、逮捕されてしまったようで連絡がつかなくなってしまいました。家賃の支払いも止まってしまいました。Aさん、Xさんのお母さんですよね?
居室内の荷物、どうしましょうか?
ええ、私がXの母です。でも、家賃の支払いはできませんし、荷物も預かることはできません。荷物は処分していただけますか?
了解しました。それでは、処分の手配をしますね。
私が拘留されている間に、私の荷物が全部処分されていたなんて信じられません。私の承諾もなく、どうしてこんなことができるんですか?
訴えます。
- 処分された物18万円
- 慰謝料200万円
不法行為だよ。弁償してください。
戻って来られたのですね。10万円は支払います。
裁判所の見解
賃貸人は慰謝料30万円を支払いなさい
本件において、賃借人Xの実母Aからの処分依頼があったとはいえ、賃借人X本人からの明確な承諾が確認できない。
賃貸人Yは、賃借人Xの逮捕という非常時の状況を考慮しても、賃借人本人の承諾なく動産を処分したことにより、Xに対して精神的苦痛を与えたと認定されます。
そのため、賃貸人Yは、賃借人Xに対して慰謝料30万円を支払いなさい。
判例のまとめ
この裁判例では、賃借人が逮捕されて連絡が取れなくなった状況下で、賃貸人が賃借人の実母からの依頼を受けて居室内の動産を処分した行為が、賃借人本人の承諾がなかったためによろしくないとされました。賃借人Xは、自分の財産が無断で処分されたことによる精神的苦痛を訴え、裁判所は賃貸人に慰謝料の支払いを命じました。この事例は、賃貸人が賃借人の財産を処分する際には、賃借人本人の明確な承諾なしで行うことは危険であることが伺えます。
連絡が取れない賃借人の動産を賃貸人が処分したことについて賃借人の慰謝料請求が認容された事例
契約書での定めが重要
借主が逮捕されるなどして長期間連絡不可能になった場合、残された個人の荷物の扱いについて、どのように対処すべきかが問題となります。
賃貸人が借主の動産を適切に処分するためには、事前に借主の承諾を得ておくことが重要ではあるのですが、そのような取り決めを互いにしておくというのが重要です。
そういったことの取り決めを契約書にしっかりと盛り込んで置くということが重要です。
契約書に定めるべき内容
契約書に下記のような条項を設けることで、賃貸人は法的な保護を受けながら、適切な手続きを踏んで動産を処分することが可能となります。
動産処分の条件
借主との連絡が一定期間取れない場合、または借主が賃貸物件から長期間不在である場合に、賃貸人が動産を処分する条件を具体的に定めます。
代理人の承諾
借主が指定する緊急連絡先や代理人からの承諾を得る手続きについて記述します。これにより、借主が連絡不可能になった際にも、代理人の承諾を基に動産処分を進めることができます。
ただし、現在の賃貸借契約において、そういった代理人を定めるのは一般的ではないですし、緊急連絡先にそこまでの決断をさせてしまうというのは重すぎるかなと感じます。
処分の費用負担
動産を処分する際の、特に処分にかかる費用の負担者をどちらにするのかを明確にしておく必要があると言えるでしょう。
退去後の残置物とは違う
退去した賃借人物を置いて出ていってしまったというのとは別の話になるということは注意が必要です。
紹介した判例は、賃借人が逮捕されるなどして長期間連絡が取れなくなった特殊な状況下での動産処分に関するものであり、賃借人の明確な承諾なく動産を処分した賃貸人の行為が不法行為とされました。
賃借人が退去し、価値ある物品が残されている場合、これらの動産をどのように扱うかは、別の話になります。そういった場合は、賃借人は残置した動産について所有権を放棄し、賃貸人がこれを処分することに異議を唱えない旨の覚書を取り交わしたりするというのが一般的です。ただこれはあくまでもその人と連絡が取れているからこそできることです。
参考事例:賃借人が残した家財道具等の処置
紹介した判例は、賃借人と連絡が取れないという状況下であったということで、全く別の話となります。
まとめ
賃貸物件の管理において、賃借人との連絡が途絶えた場合の残置物の扱いは、賃貸人にとって複雑な問題を引き起こす可能性があります。
特に、賃借人が逮捕されるなどして長期間連絡が取れなくなった場合、残された個人の財産をどのように処理するかは、慎重な対応を要します。
今回紹介した判例は、賃貸人が賃借人本人の明確な承諾なしに動産を処分したことにより、賃借人から損害賠償請求を受け、慰謝料の支払いを命じられた事例を取り上げました。
この事例から学べる教訓は、賃貸人が連絡の取れなくなった賃借人の財産を処分する際にどのようにするのか?を契約書に盛り込んでおくべきであったという点です。契約書に残置物処分に関する条項を明確に盛り込み、賃借人の合意を事前に得ておくことが、後のトラブルを避けるために極めて重要であることを示しています。賃貸物件のオーナーとしては、そういったことまで考慮してくれるかという観点で管理会社を選ぶべきであると考えています。