ご自身が住んでいた部屋を賃貸で貸し出している賃貸オーナーさんにとって、借主が室内調査や修繕に協力的でない場合の対応は頭の痛い問題ですよね。
建物の維持管理に必要な作業に借主が応じない場合、どう対処すれば良いのかという不安を感じることもあるでしょう。
そんな賃貸人の皆さんに向けて、実際の裁判例をもとに、賃借人の協力義務と賃貸人の権利について、わかりやすく解説します。読みづらい法律用語を使わず、まるで会話をしているかのような親しみやすい形でお伝えするので、ぜひ最後までお目通しください。
これからあなたに起こり得るであろう借主とのトラブルを未然に防ぐための契約書の記載方法や、将来的に類似の問題が発生した際の対処法を理解する上で役立ちます。
維持管理に協力しない借主は少なくない
分譲マンションに住まわれたことのある皆さんはご存じの通り、消防点検や排水管などの点検は定期的に必要な作業です。
しかし、賃貸管理の現場にいると、これらの点検に非協力的な借主が少なくないというのが現実です。管理会社の立場として「消防点検に立ち会ってください!」とお願いする電話をしょっちゅうしなければならないというのが現実です。
貸主さんは自分の財産を守るために点検の重要性を理解していますが、借主さんにとっては、他人の物件に過ぎず、点検のために仕事を休んで待機することは大きな負担になるというのが理由のひとつと言えるでしょう。
このような状況で、賃貸人と借主の間で生じるトラブルをどのように解決すれば良いのか、実際の裁判例を通して、賃貸人の権利と借主の協力義務について掘り下げていきます。
賃借建物の修繕要求を拒否で契約解除を認めた判例
実際にあった裁判の判決を用いて、借主の建物調査協力義務があるにもかかわらず、それに正当な理由なく応じなかったため貸主からの契約解除を認めた事例についてお伝えします。
登場人物
305号室の入居者
建物の所有者
物件を管理を担当する
判例を会話風で再現
Xさん、こんにちは。階下の205号室から浴室の天井に漏水があるとの報告を受けました。原因を調査し、修理するためには、お宅の浴室床を点検する必要があります。
漏水ですか?でも、なぜ私の部屋で調査しなければならないんですか?外壁や階下からできないんですか?
水道会社の調査によると、漏水の原因はお宅の浴室床躯体にある亀裂から来ている可能性が高いです。
正確な原因を特定し、適切に修理するために、お宅の内部に立ち入らせていただく必要があります。
いや、それは無理です。プライバシーの問題もありますし、以前の契約更新の際、あなたの会社から不適切な対応を受けました。
契約内容に不満があったにも関わらず、あなたの会社は私の意見を無視し、不誠実な態度を取りました。そのため、あなたの会社に不信感を持っています。私の部屋には立ち入らせません。
Xさん、この漏水問題は建物全体に影響を及ぼす可能性があるんですよ。
私たちは建物の長期的な保存と安全を確保する責任があります。
法律によれば、賃貸物の保存に必要な修繕のためには、賃借人は立ち入りを拒むことができないんですよ。
管理会社に不信感があるため、立ち入り調査には応じられません。他の方法で対応してください。
そこまで協力していただけないのであれば退去してください。
債務不履行だから解除を求めます。
階下の人は退去してしまって、その賃料も受け取ることができなくなったので、その損害も賠償してください。
裁判所の見解
賃貸人は契約を解除することができます。
賃貸物の保存に必要な修繕を行うためには、賃貸人が賃借物内に立ち入ることが許されます。賃借人が正当な理由なく立ち入りを拒否した場合、賃貸人は契約を解除することができます。
また、借主Xさんが立ち入り調査を拒否し続けたことで、階下の賃借人との契約解除に至りました。したがって、借主Xさんの協力義務違反による損害賠償請求は認められます。
この判例のまとめ
この判例では、賃借人が賃貸人の建物修繕のための室内への立ち入りを拒否することは、原則として許されないことが明らかにされました。
賃貸人は、建物の保存に必要な修繕を行う権利があり、賃借人はそのための立ち入りを拒否することができないとされています。
賃借人が正当な理由なく立ち入りを拒否し続けた場合、賃貸人は契約を解除することができる場合があると裁判所は判断しました。
マンション漏水事故で借主が、室内調査を正当な理由なく拒絶したことで貸主の損害賠償請求がほぼ認められた事例
正当事由とは違う話
普通賃貸借で部屋を貸し出すと、「正当事由がないと借主を退去させる事ができない」という話を聞いたことがあるかと思います。
その話とは全く別の話にはなります。
普通賃貸借だと借主を退去させることができない正当事由というのは、賃借人に契約違反がないのに退去させたいという時に必要になるものです。
本事例は、契約違反があったから退去とうい結論になったというものです。
どういう契約違反?
民法の第606条に賃借人に対して、"必要な修繕"をする義務が明記されています。
また、2項にて、保存行為、つまり何か修繕の必要がある時に「賃借人はそれを拒むことができない」とも明記されています。
(賃貸人による修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない
民法
賃借人には、修繕をする義務、保存行為に協力する義務があるのに、それらを拒んだ事が債務不履行であったと裁判所に認めてもらえたという事例です。
これは民法において定められているものですが、通常の賃貸借契約書にもそういった文言が盛り込まれているのが通常です。
契約書に定めていることを守らなければ、それは契約違反になるから契約解除となったという事例です。
繰り返しになりますが、普通賃貸借の退去が難しいと言われる正当事由による退去とは全く別の問題です。
まとめ
この事例は、賃貸物件の維持管理において、賃借人が室内調査や修繕に協力的でない場合に賃貸人が取るべき対応を明確にしてくれたと言うことができます。
賃貸人は、建物の保存と安全を確保するために必要な修繕を行う権利があり、民法第606条に基づき、賃借人はこれを拒むことができません。賃借人が正当な理由なく修繕のための室内への立ち入りを拒否した場合、賃貸人は契約を解除することができます。(※1度協力してくれない程度では足りないでしょう)
民法での規定があるとはいえ、入居後に建物の維持管理の協力を賃借人にしてもらえるように、契約書に明確な条項を設けるが大切と言えるでしょう。