店舗を賃貸し出す際によく受ける質問があります。

「この物件を飲食店として使うことは可能ですか?」と。

飲食店を含む店舗として適合するかどうかを判断するのは、多くの賃貸業者や物件所有者にとって難しい問題です。火を使うのか?揚げ物をするのか?排水はどうするのか?

それらを専門に扱っている、建築士等でない限り、用途変更に関する具体的な法的要件や、消防法、保健所からの届出に関する詳細を把握している方は少ないでしょう。

物件オーナーさんがすべてを把握しておく必要まではないという最近の判決があります。本日は、その判決についてお伝えします。

店舗物件を貸し出す際の飲食店の利用の可否の判断のひとつとしてでも活用くださいませ。

東京高判 令 3・12・23 判例集

裁判の登場人物

最初に多くはないですが、登場人物を整理します。

登場人物

X(借主)

原告、飲食業を営む。セントラルキッチン兼店舗の物件を探していた。

Y(貸主)

被告、不動産賃貸業者。物件の所有者。

Z(不動産屋)

被告、宅建業者。物件の紹介を行った媒介業者。

裁判に至るまでの流れ

裁判に至るまでどのような流れだったのかを書き出します。

1
平成30年4月頃

原告であるX(飲食業者)は、セントラルキッチン兼店舗として使用する物件の紹介を、宅建業者であるZに依頼。

2
平成30年5月25日

Zは、東京都内に所在する不動産賃貸業者であるY1が所有する建物の地下1階部分(本物件)をXに紹介。紹介書には「前業種:ダイニングバー、重飲食相談」等の記載があった。同日、XはZの案内で本物件を内覧し、電気・ガス・水道の各設備の容量についてZに照会したが、排気ダクトの容量については確認を求めなかった。

3
その後

Xは、セントラルキッチン兼店舗として本物件の入居申込書をZに提出。ZはXに対し、電気・ガス・水道の各設備の容量を回答し、内装工事業者への確認を求め、その確認が取れたら賃貸人に説明する予定である旨を連絡。Xは、設備に関して問題ないとして話を進めるようZに返答。

4
平成30年6月

Y(貸主)とX(借主)は、Z(不動産屋)の媒介により本物件の賃貸借契約を締結。Xは前賃借人と排気ダクトを含む内装・什器等を現状有姿で譲り受ける造作譲渡契約を締結。

5
平成30年7月

Xは内装改装工事に着手。翌月、工事業者から設置予定の排気設備に対する排気ダクトの容量が40%程度しかないとの説明を受ける。

6
その後

XはZを通じてYと改修工事の協議を行うが、建物の構造上多額の費用が必要となることが判明し、出店を断念。同年11月にYに対して本契約の解除通知

7
平成31年1月

Xは、Yには本物件を使用収益させる義務の違反があり、Zには改修に多額の費用を要すること等の説明義務違反があったとして、既払い賃料・賃借に要した費用等・逸失利益(1644万円余)の支払いと、Yに対してはこれに加えて保証金(320万円)の返還を求める通知を行うが、両者ともこれを拒絶

8
平成31年3月

Xは、支払いを求めてYとZに対して提訴。

という流れで裁判に至りました。

それぞれの主張

それぞれがどのような主張をしたのか、裁判までの流れをみれば概ね予想がつくこととは思いますが、わかりやすく箇条書きで書き出します。

借主Xの主張
  • 物件の排気ダクトの容量が不足しており、予定していた飲食店営業不可能だった。
  • 貸主には使用収益させる義務の違反があり、不動産屋には物件の紹介及び説明義務の違反があると主張。
  • 賃料や費用、逸失利益等の支払いを求めた。
貸主の主張

契約後に物件を速やかに引渡し、排気ダクトに一定の性能を保証したわけではない。

貸主の主張
  • 借主が内見の際に排気ダクトの容量についての確認を特に求めなかった
  • 賃借人の使用目的に完全に合致する物件を紹介する義務はない

裁判所の見解

裁判所の見解は、借主の控訴を棄却し、貸主及び不動産屋には賃借人の使用目的に合致する物件を紹介したり、適切な物件を引き渡した義務の違反があったとは認められないというものでした。要するに、賃借人が物件の使用目的に合致するかどうかの最終的な確認と判断の責任は自身にあるとされ、仲介業者貸主に過度な責任求めることはできないという立場を示しました。

媒介業者である不動産屋と貸主に対しての責任を下記のように判示しました。

媒介業者の義務違反についての裁判所の見解
  • 裁判所は、不動産屋が賃借人の使用目的に合致する物件を紹介する具体的な義務を負うことは、特段の事情がない限り認められないと判断しました。物件の適用性はその営業形態や設備改修の可能性など、複数の複合的な要因によって影響されるためです。
  • 借主が本物件を内覧し、排気ダクトを目視した上で、電気・ガス・水道の各設備の容量について不動産屋に照会し、回答を得ていたこと。
  • 借主が他の飲食店の経営を行っている経験があり、排気ダクトの容量が自身の業務に適しているかどうかの検討を自ら行うことができた立場にあったこと。
  • 借主は、排気容量に関して不動産屋に対し、明確にその要望を伝えたとは認められず、不動産屋に本物件が借主の計画する営業形態に適しているか否かを判断する状況にあったとも認められないと判断されました。
貸主の義務違反についての裁判所の見解
  • 貸主については、本契約の締結後に物件を借主に速やかに引渡し、排気ダクトに一定の性能を保証した事実がないため、契約上の義務違反があったとは認められないと裁判所は判断しました。
  • 借主は、改修に多額の費用を要することを理由に出店を断念しましたが、この状況は貸主の義務違反によるものではなく、借主自身が排気ダクトの容量が業務に適しているかの検討を行う立場にあったとされました。

まとめ

物件を飲食店として賃貸し出す際、その可否を判断することは賃貸業者や物件所有者にとって一筋縄ではいかない問題です。

特に、排気設備の容量や改修に要する費用など、専門的な知識が必要とされる場合もあります。

しかし、最近の裁判所の判断によれば、物件の使用目的に合致するかどうかの最終的な確認と判断の責任は賃借人自身にあるとされています。

この見解は、あくまでもひとつの裁判の事例にはなりますが、賃貸業者や物件所有者が直面する可能性のあるリスクを軽減し、飲食店を含む店舗としての物件利用に関して、責任の所在を明確にしてくれました。

本記事では、その判断に至る流れや、関係各者の主張、裁判所の見解を詳しく紹介しました。物件を店舗として貸し出す際の判断基準としてご活用ください。