自宅を賃貸で貸出たい方のために、賃貸でもっともトラブルになりやすい原状回復関係について”賃貸の原状回復“にて様々なことを伝えてきました。

その度に必ず出現するものが、国土交通省の作成した原状回復をめぐるトラブルとガイドラインでした。

この原状回復をめぐるトラブルとガイドラインとよく混同されがちなものに、東京都の賃貸住宅紛争防止条例というものがあります。

正式名称は”東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例“と、もしかしたらギネスに挑戦できるのではないかという期待を抱かせてくれるポテンシャルを持つほどの長さの名前ですね。

本日はこの東京都条例についてお伝えします。

条例と法律の違い

法律という言葉はさすがに誰しもが聞いたことがあるかとは思います。その法律という言葉の意味も概ね理解されているとおりであることと思われます。

一方””条例”については、確かにその言葉はよく聞くけれども、どういった立ち位置のものであるのかまでしっかり理解できている人は多くはないかなという印象を持っています。

知っている人にとっては、「そんなの知っているよ!」と言われてしまうような事ではありますが、今一度定義をあわせるために説明します。

法律は国会で決められるものです。

条例は地方自治体、例えば東京都などが制定する法です。条例は法律の範囲内で定めなければならないというものです。

一番イメージのしやすい条例は、”歩きタバコ”の禁止とかですかね。タバコを吸っていない人にはイメージしづらいかもしれませんが、歩きタバコで過料(罰金みたいなもの)を科される市町村とそうでない市町村があったりしました。

少しめずらしい条例では、さいたま市には”エスカレーターで歩いてはいけません”という決まりがあったりします。関東なので、急いでいない人は左側によって止まっていて、急いでいる人は右側を歩いたり走ったりというのが一般的なマナーである中、”両側に止まって立ちましょう”という条例です。

このように、市区町村によって異なる決まりを作ることができるのが”条例“というものです。

ガイドラインと条例の違い

つづいてガイドラインとはなんであるのかもお伝えします。

ガイドラインの位置づけは、法的根拠はありませんが、企業の行動や裁判所の判断、場合によっては警察の対応にも影響を与えます。

例えば、企業の営業秘密がどう管理されるべきかを定めた「営業秘密管理指針」は、営業秘密の保護において大きな役割を果たします。この指針に従っていない場合、営業秘密が盗まれたとしても警察が動かない、または裁判で損害賠償が認められない可能性があります。

その不動産の原状回復に関する取り決めをしたものが 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン というわけです。

ガイドラインと条例の比較表

種別 ガイドライン 条例
法的拘束力 なし あり
制定や改正の手続き 市長の決裁 議会の議決
形式・文体 特に制限はなく、自由な形式・文体で作成できる。 法律文(条文形式)。
メリット ・わかりやすい言葉で、具体的な内容を詳細に書ける。
・柔軟な対応が可能。
・法律としての拘束力があり、市の基本方針や方向性を示す力が強い。
デメリット ・あくまでガイドラインであるため、法的な拘束力はない。 ・条文形式で書かれるため、わかりにくい印象がある。

条例の対象は不動産業者だけ

このように説明をすると、条例はガイドラインの完全上位互換なのではないか?という印象を抱くかと思います。法的拘束力という意味では間違いないです。

ただ、この東京都の賃貸住宅紛争防止条例の対象は不動産業者だけになります。

貸主さんに対しては何の規制もない条例になります。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン のようにクリーニング代は原則貸主負担、故意過失のある損耗は借主負担というような経済統制法のような内容のものではありません。

不動産業者に賃貸紛争防止条例に基づく説明を、契約締結前に行わせるという説明義務を課しただけのものになります。

ガイドラインと抵触したり、上書きをしたりするようなものではありません。

そのガイドラインの内容をよりしっかり賃借人に伝えるようにといった事が目的となっているものと捉えて間違いはないでしょう。

つまり、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインはやはり重要なものとなります。

賃貸紛争防止条例に基づく説明書の中身

ギネス級に長い名前に比してその書面に書かれていることはそう多くはありません。

賃貸紛争防止条例に基づく説明書のモデルです。

不動産屋さんが説明しなければならない事
  1. 退去時における住宅の損耗等の復旧について(原状回復の基本的な考え方)
  2. 住宅の使用及び収益に必要な修繕について(入居中の修繕の基本的な考え方)
  3. 実際の契約における賃借人の負担内容について(特約の有無や内容など)
  4. 入居中の設備等の修繕及び維持管理等に関する連絡先

賃貸紛争防止条例の説明を行う効果

賃貸借契約の原状回復問題を語る時に避けて通ることのできない有名な判例があります。

通常損耗特約を巡る最高裁の判断: 平成17年12月16日判例の詳細解説

その中に原状回復の費用負担を、例えば、ハウスクリーニング費用は貸主負担であるというのを、特約で借主負担にする事を有効に成立させるための特約の3要件というものがありました。

特約成立の3要件
  1. 特約の必要があり暴利的でないこと
  2. 借主が特約のことをよく理解していること
  3. 借主が特約について契約書などにサインしていること

賃貸紛争防止条例の説明を行うことで、この特約成立のための3要件をある程度満たす事ができるようになっているという状態にはなっています。

約680万世帯が東京に居住しており、そのうちの約40%が民間賃貸住宅に住んでおり、間違いなく日本で一番入れ替わりが激しい地域になっています。

その入れ替わりの激しさから、トラブルの多さも他の地域を圧倒しているからこそ、独自のルールを設けて、より円滑に賃貸物件の入れ替えを行えるようにしようという目的のために作られたものです。

願わくば、よりスムーズに契約や重要事項説明を行うことができるように、長い名前もどうにかしていただきたいと願うばかりです。

まとめ

原状回復に関するガイドラインと条例の違いを理解し、それぞれの役割を把握することは、賃貸物件を貸し出す際には持っていて損のない知識です。これらへの理解により、賃貸契約が円滑に進むだけでなく、入退去の際の将来的な紛争を回避しやすくなり、収支計画も現実的に作成することができるようになるはずです。

ただ、不動産業で従事していたことがある人であればともかく、賃貸紛争防止条例に基づく説明書は一般の方にはとても読みづらく理解しづらいものになってしまっています。

また、実際の賃貸借契約の際には、賃借人に対しては、対面またはオンラインにて、重要事項説明書と賃貸紛争防止条例に基づく説明を丁寧に行うのですが、貸主側に対してそれらを丁寧に行っているというのを求められなければ行っていないというのが現状です。

日本という国においては、契約書があまり重視されずなんとなくで進んでいることが少なくありません。

だからといって、この賃貸紛争防止条例に基づく説明書も含む、契約書関係を軽んじてはならないと考えています。

一方で、契約書系は重要だからと、書いてあることをただダラダラと読み上げるだけの不動産屋というのも多いというのが現状です。

重要で、その人その人にとって必要なことを、ピンポイントで最低限の言葉で、難しいことを簡単に説明してくれる不動産屋さんを探しましょう。

それがあなたにとっての賃貸経営が成功するために最も必要となることになるはずです。