2020年の民法改正で新たに加わった「一部滅失による賃料の減額」の規定は、賃貸住宅の破損や設備の故障など、賃借人の過失によらない賃借物の一部滅失において、当然に賃料の減額が認められるよう明文化されました。
しかしながら、現実にはこの規定の適用事例は思いのほか少ないのが現状です。これはまだこの制度が浸透しきっていないというのが理由のひとつになってしまっているのではないかと感じています。
微力ながらも、もう少しこの制度が浸透するように、「一部滅失による賃料の減額」についての情報の発信を行っていきます。
この記事では、「こんなに使われていなかったんだ」というのがわかるデータをひと目でわかるようなグラフにしました。
対応するのは賃貸管理会社
実際に設備が壊れたり使えなくなった時に入居者と直接対応するのは多くの場合、不動産の賃貸管理会社です。大家さん自身は直接的な原因を作っているわけではありませんが、賃貸管理を委託された管理会社が十分な知識を持ち合わせていないことが、この制度の適用が少ない一因であると考えられます。管理会社は、賃借人からの要望や問題提起に対して、法律の観点から適切に対応する役割を持っています。そのため、管理会社には「一部滅失による賃料の減額」に関する詳細な知識と、それを適用する際の手続きをもっと学ぶ必要があると考えています。
情報の非対称性を解消することは、健全な賃貸業界の発展に不可欠です。賃借人と賃貸人(大家さん)双方にとって公平な取引が行われるためには、管理会社が法的背景や制度の適用基準を深く理解し、適切に情報を提供し、必要に応じて行動を起こすことが重要であると考えています。
私たちは、このような知識の普及と理解の促進を通じて、賃借人と貸主が互いに尊重し合い、納得できる関係を築ける賃貸市場を目指しています。そして、それが実現することで、より多くの人が安心して賃貸住宅を利用し、生活することができるようになると信じています。
実際に一部滅失による賃料の減額が使われた事例については下記にまとめています。
トイレが使えなかった時の対応
- 賃料の減額等
- 修繕のみ
- その他
入居者がトイレが使えなくなった時にどのように対応したのかの回答の割合です。一部滅失による賃料の減額の対応が行われたのは15.1%という回答でした。約75%が「修繕をしただけ」という回答でした。
一部滅失による賃料の減額は賃借人に対して当然に発生する権利であるにもかかわらず、このような回答結果となっておりました。
お風呂が使えなかった時の対応
- 賃料の減額等
- 修繕のみ
- その他
続きまして、入居者がお風呂を使うことができなかった時の一部滅失による賃料の減額がどの程度使われたのかという回答データです。
は39.1%も一部滅失による賃料の減額が利用されたという結果でした。
トイレが使えなくなった時との比較で約2倍は使われているようで比較的よい傾向と感じることができます。
ただ、お風呂が使えないとトイレの使えないと比較するとトイレを使えない方が入居者の負担は増えると感じています。
お風呂が使えないに給湯器が使えず、室内全体でお湯が出なかったという状態も含んでいるのではないかなと感じる回答結果でした。
水が出ない時の対応
- 賃料の減額等
- 修繕のみ
- その他
室内から「水が出なくなってしまった」という時の一部滅失による賃料の減額が使われた割合の回答結果です。
14.6%しか使われておらず、トイレの時とほぼ同様です。
72.3%が修繕のみという回答結果でした。
どれくらいの期間水が出なかったのかのデータまではないので一概には言えないですが、少し首をかしげる回答結果だなと感じています。
エアコンが使えない時の対応
- 賃料の減額等
- 修繕のみ
- その他
エアコンが使えない時に関しては、一部滅失による賃料の減額が使われたという回答は、6.9%にとどまりました。安心してください。あなたの見間違いでもなければ、入力ミスでもありません。一桁の6.9%です。
修繕のみ対応が83%という回答結果でした。
エアコンの修繕の時期、間取りなどにもよりけりにはなりますが、仮にワンルームの部屋で真夏日にエアコンが使えない状態になったらと想像すると、汗をかくはずなのに寒気がします。
電気が使えない時の対応
- 賃料の減額等
- 修繕のみ
- その他
エアコンが使えない時に関しては、一部滅失による賃料の減額の使われた割合が一桁の5.9%という結果でした。
修繕のみが85.9%という回答の結果でした。
6.3%の認知の一部滅失による賃料の減額
- よく知っている
- 少し知っている
- 知らない
- 無回答
冒頭でもお伝えしたのですが、この一部滅失による賃料の減額が全く認知がされていないなという回答結果もグラフにしてまとめました。
「よく知っている」という回答は6.3%にとどまりました。
「少し知っている」は34.5%でしたが、両方あわせても40%程度です。
「知らない」という回答が過半数を上回る56.8%という状況でした。
どのような層に対するアンケートであるのかまでは定かではないです。最近賃貸物件で引っ越しをして、契約の説明を受けたことがある人と、10年間ずっと同じところに住んでいる人でまだ住み続けるつもりがある人を並列に語っては正しいデータは取れないので。。。
ただ、元データからはそこまでの情報を引き出すことはできませんでした。
まとめ
2020年の民法改正で導入された「一部滅失による賃料の減額」制度が現実にはあまり利用されていない状況について伝えました。
この制度が想定するほど広く活用されていないのは、情報の非対称性と知識の不足によるものであることが原因のひとつと考えています。
多くの場合、賃貸管理会社が入居者との間に立って問題を解決する立場にあります。そのため、管理会社が「一部滅失による賃料の減額」に関する法律や手続きに関する十分な知識を有していないと、このような制度は有効に機能しません。
この制度の普及と理解を深めるためには、私たちも情報発信を続けていきます。この記事が、一部滅失による賃料の減額制度についての理解を深め、より多くの人がこの制度を適切に利用できるようになるきっかけとなれば幸いです。最終的には、すべての関係者が互いに信頼し合い、より良い賃貸市場を共に作り上げていくことが、私たちの願いです。