自宅を賃貸に出そうと考えているけれども、何かが壊れたらそれを修繕しなければならないという点に不安を感じられていることかと思います。そんな不安を感じられている方に対して、修繕義務を最低限にすることができるということを伝えます。

“設備”と”残置物”の違い

初めて部屋を賃貸に出そうという方には聞き慣れない言葉になるかと思います。ただ、大半の方が一度は賃貸物件に入居したことがあるのではないでしょうか?その時にこのような表を見たことがあるかと思います。

設備とは、物件に元から設置されているものや、貸主が入居者の利用のために提供する物のことを指します。これらは物件の一部として貸し出されるため、故障や破損が生じた場合の修理責任は通常、貸主が負担します。

“設備”と聞くと構えてしまうかもしれませんが、具体例を見ると「あぁいつも家にあるやつね」となるかと思います。

設備の具体例
  • エアコン
  • 給湯器
  • 照明
  • ガスコンロ
  • 温水便座器 など

残置物とは?

一方、残置物は前の入居者が撤去せずに残していった家電などのことを指します。

例えば、前入居者が設置したエアコンが一番の代表例になります。もし前の入居者が自費で取り付けたエアコンを残していった場合、これは残置物に該当します。

このエアコンが故障した場合までも、賃貸の貸出しをしている大家さんが負担するというのはちょっとおかしな事になるというのは想像がつくかと思います。

そういった残置物のエアコンが故障したら、その時の賃借人が修理費用を負担する必要があります。

もちろん、賃借人には修繕義務もないので、大家さんとしては、「直したければ自分で直してね。」という姿勢でいることができるようになります。

残置物のエアコンの修繕義務は貸主にないとした事例

2011年時点の掲載なので、2020年の民法改正前の情報であり、元にしている裁判も昭和39年のものなのですが、実際にそれを問題にした事例があります。

残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在

賃貸物件で前の借主によって残されたエアコンが壊れた場合、誰が修理責任を持つのかという問題について、契約書には明記されていないものの、重要事項説明書に「修理は借主が行う」と記されており、借主がこの説明に署名したことから、修理義務は借主にあると結論づけられた事例です。

宅建業者の注目するところは、”この重要事項説明は契約の一部と見なされ、残置物も賃貸契約の対象になり得る”というところだったりしますが、賃貸大家さんにとってはあまり関係のないところですね。

残置物にした方がよいもの

言葉の使い方が難しいのですが、この残置物の仕組みをうまく使いましょうという事が伝えたいことになります。残置物の定義を”前の借主が置いていったもの”としましたが、自宅として使われていた部屋であれば、大家さんが使っていたものということで残置物として扱うことができることに異論はないでしょう。

例えばこのようなものは残置物として扱った方がよいというものをお伝えします。

床暖房は残置物一択

床暖房の修繕を行ったことありますか?大半の方がないという回答になることでしょう。床暖房の修繕は、フローリングを剥がすところからやらなければならないので大変な費用負担となってしまいます。

それに対して、賃借人が床暖房で得ることができるメリットというのは、エアコンや電気カーペットなどを使えば賄うことができるもので、あればそれは嬉しいけれども、なければだめになるというものではありません。

賃貸経営の支出リスクを減らすためにも床暖房は”残置物”とすることを推奨します。

照明器具も残置物推奨

照明はお気に入りの一点もの!というものであれば、それは大家さんが引越し先にも持っていかれることと思われます。引越し先では使わないから部屋に置いたままにされているわけなので。

照明の電球切れ程度であればそれは軽微な修繕として賃借人がメンテナンスで行うべきことになりますので、照明のトラブルというと具体例が浮かばないのですが、残置物とすることを推奨しています。

エアコンの残置物は疑義

エアコンの残置物に疑義が出始めている理由としては、エアコンはやはり壊れてしまう事が他のものよりも多いためでしょう。

壊れたら確かに修理の費用負担をしなくてもよいのですが、エアコンを交換しなくてはならない場合は少し細かなことを考えなければなりません。

残置物であっても、その所有権は貸主、つまり大家さんであるあなたのものになるのです。

エアコンの処分にはお金がかかるので、新しいのを買うのはいいけど、じゃあその処分代は?という問題が出たりします。そんなに大きな問題はないものの、少しだけ細かな問題が生じます。

一般に「残置物」といわれている物は、従前の借主がその所有権を放棄したものであるから、それを占有している貸主がその物を次の借主に使わせる(処分する)ということは、貸主がその物の所有権を取得しているものと考えることができる

残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在

残置物だからといって入居者が勝手に処分をしてはならないのが原則です。

退去の時の清掃は?入居者の日頃のメンテナンス義務は?など考えなければならないことは他にもありますが、それらは個別に考えていくのがよいでしょう。

賃料を毎月20万円以上を払うような方々からしてみれば、「この暑い国でエアコンもないのか」と感じる人がいるというのも理解できます。

私の個人的な考えではありますが、賃料をいただくので、何かが壊れた時の費用負担を負わないために何もかもを残置物扱するというのは、あまり好みではありません。壊れることが多いからとエアコンを残置物にするというサービスの提供をするという考え方をあまり受け入れることができないです。

それぞれの個別の事情に合わせて決めるのがよいと考えています。

残置物にできないもの

すべてのものを残置物にできるわけではないというのは説明しなくても伝わっているかと思います。

念の為、「さすがにそれは残置物にできないだろう」というものもお伝えします。

代表例は給湯器ですかね。給湯器はなかなかの比率で壊れるものです。更に修繕費の負担が大きいものになります。あまり給湯器がなんであるかを意識したことのある人は少ないことでしょう。

給湯器が壊れてしまうとお湯が出なくなってしまいます。さすがにお湯が出なくなった時の負担までを借主に負担させるというのはおかしいでしょう。

トイレやお風呂、キッチンなどを残置物とすることができないというのも想像がつくことと思います。

残置物にすると入居者が決まりにくい?

結論からお伝えすると、例えばエアコンを残置物として、入居者が決まりにくくなるかどうかというと、あまり変わらないでしょう。

おそらく大半の賃借人が残置物であることを認識するのは契約時になります。どの部屋にしようかな?と悩んでいるときに、「あそこの部屋はエアコンが残置物だから。。。」と検討材料にする人は不動産関係で従事している人以外いないものと思われます。

厳密には、suumoやHOME’Sなどのポータルサイトで残置物であればその設備があるようにチェックを入れてはならないのでしょうが、そこについて何も言われていないのが現状ですし、物件のチラシもスペースに制限があるため、残置物であることが書かれていることの方が少ないです。

これらの広告の制限がより厳密に行われるようになったら、多少は入居者に見つけてもらえるのが減る可能性はありますが、ほぼないでしょう。

つまり、入居者を見つける上ではあまり関係ないと言えます。

残置物のデメリット

残置物の扱いに対して正しい理解をできている人がいないですし、入居者がそれを意識するのは契約時が大半です。

あまりなんでもかんでも残置物にすると、「さすがにそれは。。。」となって契約直前に契約が破談してしまうという可能性が、通常よりも高いと言えるでしょう。

自社の物件であれば、案内の段階からそういったことをしっかりと伝えるのですが、他社の仲介を通す時はどうしてもそこまで徹底することはできないというのが現実です。

もっとも、それらを加味しても、そのような事態にならないようにするのが私たち賃貸管理会社の腕の見せどころではあります。

まとめ

自宅を賃貸に出そうと考えている貸主さんで、修繕費について不安を持っている方に、「設備」と「残置物」の違いや、残置物として扱うべきもの、またそうではないものについてお伝えしました。

私個人としては、賃貸物件に何もかもを残置物として扱うことには消極的です。

床暖房などの高額修繕が必要なものは残置物にすることでリスクを避けるために必要であると考ています。

入居者が快適に生活できるようにという気遣いがあった方が関係する人一同が気持ちよく取引をできるのではないかなと感じています。結果それにより入居者も室内を大家さんのものという意識でキレイに使ってくれて退去時まで気持ちよく取引できるというのが望ましい賃貸取引の世界かなと考えています。

いずれにしても、賃貸サービスとして提供する上で、適切なバランスを見つけることが重要だと感じています。