自分の部屋を貸し出そうか考えられている方にとって、自分が部屋を貸し出す立場になったら、どういう責任があるんだ?と不安に感じられている方は少なくないと思われます。このような例がありますよと、比較的最近の令和になってからの2つの裁判例を紹介します。

浸水事故に対する賃貸人の対応

東京地裁 令和2年12月24日判決この裁判例について見てみます。

お風呂やトイレから汚水が逆流していたにも関わらず、賃貸人がクリーニング等を怠ったという事例です。

登場人物

賃借人X

物件を借りていた個人

    賃貸人Y

    物件のオーナー

      前提条件
      • .平成26年2月7日からその後更新
      • 賃料 106,000円(賃料96,000円 + 管理費10,000円)

      それぞれの主張

      賃借人X

      浴室からの汚水逆流で、部屋が浸水しました。家具も水没して、生活に支障が出ています。

      賃貸人Y

      応急措置として高圧洗浄を行いましたよ。

      賃借人X

      ですが、部屋のクリーニングや修繕は行われておらず、仮住まいの手配もされていません。この状態では住むことができません。

      賃貸人Y

      共用排水管の問題で、すぐには修繕できない状況です。仮住まいの手配は契約には含まれていないため、そこまではできません。

      賃借人X

      でも、居住不能な状態を放置され、転居せざるを得なくなりました。新居への転居費用や家賃の差額、さらには精神的な苦痛に対する損害賠償を求めます。

      賃貸人Y

      緊急の対応をし、共用部の修繕も進めています。仮住まいの手配は賃貸契約の範囲外ですし、転居先の家賃の差額についても、その必要性は認められません。

      というのが、それぞれの主張でした。それに対して裁判所は次のように判決を出しました。

      賃貸人の修繕義務違反を認定

      裁判所

      居住可能な環境を提供する義務を怠った

      浴室からの汚水逆流による室内の大規模な浸水が居住環境を著しく損ない、賃貸人Yが適切なクリーニングや修繕を行わなかった点を問題視し、新居への転居に要した経費や家賃の差額などの損害賠償を一部認めました。

      それに対して、仮住まいの手配義務は賃貸人にはないと判断しました。

      漏水対応について賃貸人が対応しなかた判決例

      東京地判 令 2・3・24

      賃借人が天井からの漏水が3年以上も継続し、バケツを水受けにしているような生活を送っているにも関わらず、上階の人と連絡が取れず確認修繕が遅くなったという事例です。

      賃借人X

      物件を借りていた個人

      犬を飼育していた。

        賃貸人Y

        物件のオーナー

          前提条件
          • .平成27年2月賃貸借契約締結
          • 同年3月からアパートに居住開始
          • 平成27年7月から平成30年10月まで漏水
          • ペットの飼育が可能
          • 敷金は退去時に全額償却する旨の特約が記載されていた。

          それぞれの主張

          賃借人X

          アパートの天井から漏水が発生し続けています。玄関に水たまりができ、壁にはカビが生じています。これは明らかに住居使用に支障をきたしています。

          賃貸人Y

          上階の貸室を確認しようとしましたが、連絡が取れず、確認できませんでした。しかし、漏水防止措置を依頼し、対応を試みました。

          賃借人X

          しかし、漏水は改善されず、居住が困難な状態が続いています。使用収益義務や修繕義務を履行していないため、損害賠償と退去後の過払賃料、敷金の返還を求めます。

          賃貸人Y

          漏水の原因は上階の洗濯機であり、アパート自体の問題ではありません。早期対応を試みましたが、上階の賃借人の不誠実な対応が原因で遅れました。

          裁判所の見解

          裁判所

          賃貸人Yは、使用収益義務ないし修繕義務を完全には履行していない

          平成27年7月から平成30年10月までの漏水により、賃借人Xの住居使用目的が一定程度制限されたことが認められ、賃貸人Yには債務不履行の帰責事由がある。

          漏水による靴のクリーニング代と住居使用が阻害されたことによる損害(月額賃料の3割相当)を認めましたが、引越代や有給休暇の取得による損害、慰謝料の請求は認めませんでした。過払い賃料や敷金返還の請求についても、賃貸借契約が終了していないと判断し、理由がないとされました。

          まとめ

          賃貸人として部屋を貸し出す際、責任と義務は大きな不安の原因になりがちです。しかし、これらの裁判例から学ぶことは多くあります。賃貸人は、賃借人が安心して生活できる環境を提供する義務があり、問題が発生した際には迅速かつ適切な対応が求められます。

          漏水や浸水のような緊急の問題に対しては、特に注意が必要です。そのような事が起きた時、誰がどこにどのように連絡をするのかをしっかり把握しておく事が重要です。

          これらの事例を通じて、賃貸人としての自覚と責任を持ち、賃借人との信頼関係を築くことが、争いを避け、長期的な関係を維持できるといのが理想的な賃貸経営です。

          目先の美味しい話ばかりではなく、そういった長期的な視点でフォロー、アドバイスしてくれる不動産屋さんを探しましょう。