これまで、共有者の中に連絡が取れない人がいる場合、不動産の売却や管理を進めるためには、不在者財産管理人制度失踪宣告といった、とてつもない労力と時間を要する手続きに頼るしかありませんでした。しかし、共有不動産を多少簡易に売却することを可能にする期待を持つことができる法制度が導入されました。

この記事では、行方不明の共有者がいる場合でも、共有不動産の売却をよりスムーズに行うことが期待できる新しい制度について詳しく解説していきます。

持分のみの売却は可能ではあった

最初によくある勘違いで「共有の状態であると売却できない」という勘違いが少なくありませんでした。

実は、共有の例えば夫婦で夫が2分の1の持分を持っていれば、その持分の2分の1だけを売却するということはできました。ただし、持分が2分の1だからといって、価格が単純に2分の1になるというものではありませんでした。

例えば全体の価格が1000万円だとしたら、夫の分だけの売却価格が500万円になるわけではありません。

実際に買い取ってっくれる人の状況などで様々ですが、第三者への売却なんかであれば、100万円くらいにまで下がってしまうのではないかというくらい価値が下がってしまうものでした。※数字はあくまでも例です。

そのため、後々の売却がしづらいものになるので不動産の共有状態というのは、好ましい状況とは言えないというのが一般的でした。

イメージしやすいようにと夫婦の例を用いましたが、実際に共有不動産で問題になるのは、たいてい相続から発生していました。

連絡も取ったことのない、異母兄弟や叔父叔母、会ったこともない親族などと気がついたら共有状態になっているということがとても多く、今の日本の空家問題にもつながっていたりします。

これを解消しやすいようにと創設された制度であると捉えて問題はないでしょう。

不明共有者の持分キャッシュアウト制度

正式には、所在等不明共有者の持分の取得という呼び名なのですが、これらの問題を解決しようという最先端の場所では、”不明共有者の持分キャッシュアウト制度“という呼び方で広がっています。

名前をかっこよくするというのはとても大切だと考えています。

例えば、所在等不明共有者の持分の取得のままですとこの制度は広がらないであろうなと感じるのですが、”キャッシュアウト”という言葉を使うだけで、不動産屋さんがゴキブリの如く群がりそうになるなとの印象を抱くことができるようになっています。

手続きが簡単なわけではない

X(旧Twitter)での弁護士さんのポストを見る限り「かんたんなものではなさそうだな」というのは伝わりました。

評価額は「リーズナブルな印象」ということなので、実勢価格よりも、評価証明書に近い金額になりそうであろうなと感じていますが、エリアによって大きな差が出そうなものであろうなと感じています。

供託とは?

このX(旧Twitter)のポストの中で”供託所”という見慣れない言葉があります。これがどういうものかをざっくり説明します。供託所はなんとなく「国がお金を預かってくれるところ」といったイメージで大きくズレることはないです。

例えば選挙に出たいという時、供託所にお金を預けないと立候補できなかったりします。東京都知事選に立候補したければ300万円を供託所に供託しないと立候補できないんです。

それで一定の投票数を得ることができなければその供託金は没収されてしまうので。それにより、いたずらで立候補する人を抑制するという狙いがあるのでしょう。東京の都知事選は投票できる人の10分の1、つまり10%以上の得票を得ることができないと300万円が没収されてしまうというものです。

2020年の都知事選では、22人が立候補して、17人が供託金没収という結果だったようです。

身近な不動産関係の問題では、賃料の値上げ交渉に対して、争いがあるときに、賃借人が遅延損害金がかからないようにと供託所に供託するという形で利用されます。

そんなお金を預かるところが供託所です。

そこに、行方不明の共有者に払うべきお金を供託所に供託することで、その持分を連絡を取ることができる共有者のものにすることができるという仕組みです。

所在等不明共有者の持分の取得で変わったことは?

順序が逆になってしまいましたが、”不明共有者の持分キャッシュアウト制度”と呼ばれる”所在等不明共有者の持分の取得”は従前から何が変わって、どのような手続きの流れになるのかを説明します。

根拠条文

法律周りのお仕事をされている方でない限り。。。読んでも何がなんだかちんぷんかんぷんになるかと思いますが、説明する前提としてどうしても載せておかなければならないので、条文を引用します。

第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合であん分してそれぞれ取得させる。

民法

行方不明共有者の持分をその他の共有者に集める手続きで、262条の3については今回は触れません。

変わったことBefore After

Before
  • 判決による共有物分割が必要で全ての共有者を当事者として訴えを起しなければならないなど、手続上の負担が大きかった。
  • 不在者財産管理人等の選任を経ない限り、任意譲渡は不可能であり、管理人の報酬等に要する費用負担、時間、労力が問題であった。
After
  • 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の不動産の持分を取得することができる。
  • 所在等不明共有者は、持分を取得した共有者に対する時価相当額請求権を取得(供託金のこと)

所在等不明の意味

法律を読む時、それについて考える時は丁寧に”定義”を確認する事が大切です。この法律でいう”所在等不明”はどのように定義されているのでしょうか?

申立人において、登記簿のほかに、住民票等の調査など必要な調査をし、裁判所において、その所在等が不明であると認められることが必要

所在等不明共有者の不動産の持分の取得

ここから読み解くに、住民票等の調査のみで十分なのかなと。ただ、それだけでは足りず、裁判所に認められてはじめて”所在等不明”になると言えるでしょう。

私自身はまだこの手続きを行ったことがないのですが、おそらく「これくらいの調査で十分そうだな」というものを伝えます。

国内にいれば、その人の住民票に登録されている住所の特定まではできます。その住民票宛に配達証明付きの内容証明やら本人限定郵便やらを送って、郵便屋さんから「不在でした」などの情報で十分なのではないかなと思われます。ここのハードルを高くする意味はないですからね。

所在等不明共有者の持分の取得の手続きの流れ

それでは、どのような流れで不明共有者の持分キャッシュアウト制度の手続きを進めていくのかをステップバイステップにてお伝えします。

1
裁判所への申立て・証拠提出

提出する先の裁判所は不動産の所在地を基準とします。

2
異議届出期間等の公告・登記簿上の共有者への通知

ここで、裁判所が所在等不明と思われていた人と連絡が取れて異議の届出がなされたら手続きは却下されます。

3
3か月以上の異議届出期間等の経過

この期間に、他の連絡の取れる共有者から異議があったり、共有分割訴訟が提起されたりしても申立ては却下となります。

4
時価相当額の金銭の供託

具体的な金額を裁判所が決めます。X(旧Twitter)での弁護士さんの「供託金の納付は超タイト」というのは、ここから納付までの期間のことでしょう。供託になれている方であれば大半の方が供託という言葉を初めて聞くであろうから、ここはあらかじめしっかり聞いておかないとならないところなんだなということを知ることができました。

5
取得の裁判

申立人が持分を取得するのは、裁判の確定時とのことですが、おそらく供託の納付書の確認をした後になることでしょう。

通達に下記の記述があったので、日程がタイトというのはこの事なのかもしれません。

所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後2か月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失うこととされた。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができることとされた。

令和5年3月28日付け法務省民二第533号通達

登記手続きは?

その共有状態を解消する登記はどのようにするのだろう?確定判決があれば、行方不明共有者のまま名義で売却できるのかな?(262条の3の問題)という疑問が生じました。

登記手続きについては、司法書士に独占業務があるわけなので、こういう情報を司法書士がもっと積極的に発信しないで、司法書士の方たちは何をやってるんだか。。。と不満を感じます。もしかすると、情報を発信しているのかもしれませんが、ちょっと検索してパッと見つかりませんでした。

民法第262条の2の登記手続き

共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる裁判があり、当該裁判に基づいて当該持分の移転の登記の申請がされた場合には、当該持分を取得した共有者は、当該所在等不明共有者の代理人となると解される。また、確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報及び登記原因証明情報となる。この場合において、登記原因は「年月日民法第262条の2の裁判」と記載し、登記原因の日付は当該裁判が確定した日(当該裁判がされた日ではない。)とする。なお、登記識別情報を提供することを要しない。

令和5年3月28日付け法務省民二第533号通達

こちらを見る限り、当然の事なのかもしれませんが、民法第262条の2の場合、行方不明共有者の持分は他の共有者に持分移転登記をする必要はあるようですね。

登記原因は「年月日民法第262条の2の裁判」となるそうです。

行方不明共有者が義務者となり、他の共有者が権利者になる形で、他の共有者が行方不明者の代理人になるという形になるようですね。

相続で使えない

この手続きのちょっと残念に感じてしまったところは、相続手続きの遺産分割未了の状態では使えないというところです。

所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない

民法

「相続開始の時から10年」とされているので、相続登記がされることまでは求められていないのはせめてもの救いと感じますが、10年はさすがに長いですね。

まとめ

不動産の共有状態は、その管理や売却を巡って予想外の困難が多く空家問題の原因のひとつにもつながっていました。特に、所在等不明の共有者がいる場合、これまでの制度では手続きが複雑で、時間と費用がかかるものでした。しかし、新たに導入された「不明共有者の持分キャッシュアウト制度」は、これらの問題を解決するための有効に活用される事の期待が持てるものです。

この制度を利用することで、所在等不明の共有者の持分をよりスムーズに取り扱うことが可能になる事がが期待できます。手続きは簡単ではないものの、従来の方法と比較して、共有不動産の管理や売却をよりだいぶマシになったといえるでしょう。

不明共有者の持分キャッシュアウト制度の概要、手続きの流れ、そしてその利点や注意点について詳しく説明しました。

不動産の共有状態でお困りの方は、不動産の価値を最大限に活用するために、この新しい制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか?